第3話 神父達

3 神父達


「うーん」

眼を覚ましたミキコ。眼前にバードのドアップがある。

「起きたか? 」

「うわっつ」

咄嗟に膝蹴りと平手打ちを打ち込むミキコ。ミキコの攻撃は無防備だったバードの急所と顔面を捕らえた。

「イッターイイ」

込み上げる腹痛に、激しい音を立てて転がりまくるバード。その音を聞きつけたBGがひょい、と部屋を覗いた。

「アルセス様。お気づきになりましたよ」

 背後に向かって声を掛ける。返答は直ぐにあった。

「それは良かった。すぐに、ご挨拶に伺います」

扉が開き、アルセスが姿を現した。少年従者であるBGは輝く瞳でその姿を見上げている。

二人は足下でのたうつバードを踏みつけ、ミキコのベッドに近寄った。

― 神父と従者ね。

 意識を失う前、ミキコは教会に辿り着いたことを思い出す。様相から察しても、この二人が司祭の関係者である事は間違いが無いだろう。

「くぴぷ。お怪我の具合はいかがですか? ミキコ様」

「私の事を知っているのですか? 」

 ミキコは身を固めた。アルセスはミキコに語り始めた。

「勿論です。ご挨拶が遅れました私は神官のアルセスです。この教会は救いを求める者を拒みません。御安心なさって結構ですよ」

 ミキコの警戒心を解きほぐすように、言葉を選ぶ。

「この者はBG。あちらの者はバードと申します。この教会には私たちしかおりません。皆、神の忠実な僕です。安心してお怪我を癒して下さい」

 真摯なアルセスの態度に、ミキコは緊張を解き、答えた。

「完全に安心な訳ではなさそうですが。でも、しばらくはご厄介になります。ありがとうございます」

ミキコの眼は床で固まるバードに向けられていた。ミキコの視線に気が付いたアルセスがバードを振り返りながら言った。

「バードの事でしたらご心配なさらずに。もうすぐ彼は旅に出ていきます」

「そうですか。そのお言葉で身の安全が保障された様に思えます」

よかった、と胸を撫で下ろすミキコだった。が、そうすんなりと事は進まない。復活を遂げたバードが飛び起きた。

「ヤーメタ。行くのヤーメタ。俺達の腐れ縁は神様のご意思なんだろう? 水臭いぜアルセス! 共に進もう棘の道ってな」

「ほよよ? またまた心を入れ替えましたね。神は何度でも過ちを許します。くぴぷ」

「くぴぷ」

アルセスとBGが声を合わせた。

「つーコトで、俺ぇもよろしくね、ミキコちゃん」

 バードが放ったウインクをミキコは苦笑いでやり過ごす。身の安全が保証できない以上、逃げ道が必要だった。その為には地理的状況の把握が必要だ。

「アルセス様。教会の中を見て回りたいのですが? 」

 ミキコはアルセスに許可を求めた。

「それは構いませんが。お怪我に触るのではないでしょうか? 」

「大丈夫です。少し気になる事があるので確認しておきたいのです」

「そうですか。ではご自由にお過ごしください」

「ミキコ様。オーレ様が案内してやるゼ」

手を上げ、進み出たバードを六つの眼が睨んだ。場の空気に珍しく飲まれ、バードは手をしずしずと下ろす。

「あ、そーだ。俺様、用事があった。計画を練らなきゃいかんのだった」

「泥棒の計画ですか? 」

 訊ねるBGの頭を小突き、バードは答えた。

「良く分かったな、内緒だぜぇ」

 バード自身にその気が無い様に思える。ミキコはアルセスに目を向けた。

「アルセス様。案内はBGに頼みたいのですが?」

 アルセスはミキコに頷き、BGを振り返る。

「構いませんよ。BG、ミキコ様に粗相が無い様に、しっかりと勤め上げてください」

「かしこまりましたアルセス様」

BGは深々と頭を下げた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る