第2話 出会いは運命

2 出会いは運命


 教会の中だった。上方には天窓があって、色ガラスが填められている。そのガラスは入り込む光に彩色を与え、部屋の中を幻想的に染め上げた。その空間に二人の男がいた。

一人は首を下げ、鎮座する神像に祈りを捧げている。もう一人は聴講席に身を預け、足を乱暴に投げ出していた。

「がんちゃ。掲示がありました。もうすぐ何かがやってきます」

「アールセス、もっと具体的に言えよー。嘘―臭いぜ。だから俺達は誤解されるんだよぉ」

「誤解ではありません。全て神からの試練です。共にその困難の道を行きましょう。バード」

「イヤーなこったょ。腐れ縁も程々だぜ」

「我等二人で切り開く棘の道は、後の世の光となります。我らにこの道をご用意されたのは神のご意思なのですよ」

「テメーでやりなよ、そんな事。俺ぁはそーんなこった御免だぁぜ。母ちゃんの頼みでも断る俺様だぁ。全く以てヤル気なし。さてと、俺ぁもう行くぜ、邪魔したな、アバヨ」

「そうですか、さようならバード。貴方に神のご加護がありますように祈っています」

「要らねーよぉ」

「アルセス様! 」

背後の扉が乱暴な音を立てた。振り返る二人の目に、息を切らし、飛び込んできた少年が映った。少年は腹部にポケットの付いた修道着を身に着けている。

「がんちゃ。BGどうなさったのですか? そんなに慌てて」

 静かな言葉だが、少年の振る舞いを窘めるニュアンスがあった。BGと呼ばれた少年はそれを察し、直ぐに態度を改めた。

「はい。教会の門前に一人の美少女が倒れております」

「美少女? くぴぷ? 」

 BGの言葉に、はて、と首を傾げるアルセスだった。一方、バードは弾かれた様に飛び起きた。

「なぁーんだって? カワイー子ちゃんが倒れているって? そいつはアヤコちゃんだ! 」

脱兎のごとく駆け出す細身のバード。赤い上着の端から見える手足は細く長い。

「BG。緊急事態が発生です。至急、バードを追いかけ、その美少女を救うのです」

「僕よりもアルセス様が走ればすぐに追いつけますよ」

 面倒な訳では無い。BGは事実をそのまま、口にしただけだ。

「実は“きゅーん”は只今、封印中です」

「それは初耳でした。たしか、オデコから出るビームも封印していましたよね」

丁寧なお辞儀で答え、BGはポケットをまさぐり始めた。手に触れ、取り出したモノを走るバードめがけて投げつける。

「えいえいえいえい! 」

 だが、既にバードは遠い。非力なBGではバードまで届かない。

「貸しなさい」

「はい」

 アルセスにBGはモノを一つ手渡す。

「もっとです」

「かしこまりました」

 BGは初めの10倍程の数を手渡した。

「結構です。見ていなさい」

「はい」

 アルセスは走り去るバードの背中を見つめた。赤い上を目標として、腕を振り上げる。

「くぴ」

 緊張感の無い一声を上げ、腕を振った。剛腕が風を斬り、モノがバードめがけて放たれる。

「なーにしやがる! このスットコドッコイ」

投げつけられたモノをひらりひらりと避けたバードだが、地面に転がったモノを踏みつけてしまった。

「あららららら~」

バランスを崩し、転倒するバード。その時、投げられたモノに変化があった。小さなキューブ状の形態が、がひも状形態に変化する。そして、ひも状に変形したモノは、にょろりと動きだし、転がったバードを縛り上げた。

「ニャロウ!放せ!」

「やりましたBG。さあ、案内をしてください」

「かしこまりました」

二人は喧しいバードを置き去り、部屋を出て行った。BGを先頭にして、二人は教会の中を急いだ。

「この方です。アルセス様」

 息を切らせたBGが屈みこんだ。教会の門前には血に染まったミキコが倒れている。呼吸は荒く、裂かれた衣服の隙間から白い肌が覗いていた。

「ほよ?このお方はどこかでお会いした事がありますね」

「本当ですか! どなたでしょう?」

「ツンツクツン。あんた、誰? 」

倒れているミキコを人差し指でつっ突くアルセス。

「アルセス様。この方は気を失っています。お答えになる訳ありません」

「師の振る舞いを窘める事も弟子の役割です。BG、立派になりましたね」

「いやあ、それ程でも」

 この間、師と弟子は怪我人を忘れていた。

「なーんだ! ミキコちゃんじゃーん」

背後から突然の声に二人は我に返る。

「ほよー ! 驚いた。バードどうやって抜け出たのですか? 」

「俺様にとっちゃ、あーんなワッカなんか屁の河童」

「そうですか。スゴーイ、スゴーイ。さてと、バードの云う通り、この方はミキコ様ですね。以前、お見かけした事が有りました。さてと、BG、急いで教会内に運ぶのです」

「かしこまりました」

「俺ぇさまも手伝ってやるぜ~」

三人はミキコを抱え、教会内に向かった。

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