第8話 祈り
8 祈り
「すると、この機械は人間のギャグを動物サイズに翻訳する機械なのですか? 」
したり顔のミキコにムカデが答える。
「違うわぃ」
ムカデは荒く答えた。すかさずBGが気を利かせた。
「百八様。互いの言葉を翻訳する機械って事ですよね」
「そのような理解が普通だな、BG。しかし、それだけでは無いようじゃ」
ムカデの細い眼が取扱説明に光る。
「動物の知能を向上させる働きがあるようだ。人間並の知能が無ければ、人間の高等なギャグは理解できるはずがない」
「なるほど」
「どうだか」
納得するBGとミキコ。ムカデは椅子から飛び下りた。
「以上じゃ。私が役立てる事はこのくらいじゃあよ」
そして、二人に向かい、此処から去るように云う。
「ムカデ様。最後に一つ教えてください」
素朴な丸椅子に座らされたミキコが立ち上がった。そして、敬愛の態度でムカデに訊ねた。
「何ですかな? 」
長く語り、時間が過ぎてムカデの怒りも静まっていた。ミキコの変化も自分を省みる切っ掛けとなった。
「祈りは通じるのでしょうか? 」
「はて? 」
「アルセス様も私達の無事を祈って下さいました。その為、私達は無事に百八万足様にお会いする事が出来たと思います。しかし、本当に『祈り』は通じるのでしょうか? 」
「そのような問いは私では無く、アルセスに問われる方が良いのではないでしょうか? 」
「ですが、先程のお話しでは願いは叶ったとおっしゃいました」
「確かに、云いました」
ムカデは頷いた。床に届いた顎鬚がゆさゆさと揺れる。
「ミキコ様は何をお知りになりたいのですかな? 」
「はい。私は祈りの『実績』を知りたいのです」
「『実績? 』成程。ではお答えしましょう。古くから人間達は沢山の願い事を祈ってきました。その中の多くは叶いませんでしたが、叶った願いがある事も事実です。ミキコ様もそんな経験がお有かと思いますが」
「幼き頃の願いなら、何度か叶ったように思えます」
「それが答えです」
「つまり、どういう事でしょう? 」
「願いの大小に関わらず、一例でも存在していれば、『祈り』は通じると云う事になりますな。さすればそれが『実績』ではないでしょうか? 」
「ふーむ」
「さらにミキコ様の手にしている機械が『祈り』の『実績』を表しているではありませんかな? 」
「なるほど。しかし、何故、少年の祈りは神に届いたのでしょうか」
「伝承された文献によると少年は祈りと共にある物を捧げたそうです」
「ある物とは? 」
「残された文献のその個所だけが破かれておりました。何が書かれていたか、そして何故、誰が行ったのか。それらは謎のままです」
ムカデはそう言って頭を下げ、静かに二人を送りだした。
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