第9話 カードゲーム

9 カードゲーム


王宮の戦略室で、二人の人間がカード遊びをしている。

「戦況はどうだ? 」

「芳しくありません。身体能力で我軍は敵に劣ります。知能も同レベルもしくはそれ以上の敵に対し、勝っているのは兵隊の数だけです」

「兵力が戦争では最重要なのではないか? 」

「はい。圧倒的な戦力の差は戦わずして勝利になります。しかし、世には一騎当千という言葉が存在します。また、戦略の不備を補う為の戦術もあります。敵側にも優れた策士が居るようです」

「何が言いたい? 」

 楽しみの口ぶりで男は言った。ゲームは五分より負けてからの方が熱入る。

「はい。我軍の劣勢が明確な状況となりました。さらに、兵力を支える物資が欠乏してきました。これでは兵力の大が裏目に出ます。つまり、状況は最悪の局面へと向かいつつあります。さて、私はこのカードでストップします。勝負です」

「勝負だな。OK、受けよう」

男は手札から数枚捨て、山札から最後の数枚をめくり取る。

「戦術は我軍にもあるだろう。軍師のミキコはどうした? 見つかったか? 」

「未だです。部隊の状況から生存の可能性は低いと思いますが、一応、探索は続行しています。ですが、そろそろ打ち切らないといけません。敵との遭遇が思っていたより頻繁です………。 私はストレートフラッシュです」

褐色の肌をした女将軍は手札を広げた。王子は自分の手札と見比べ、言った。

「不利な戦況を変える偶然も存在するのが戦いである」

パラリと王子は手札を広げ、DTに示す。

「これは、まさか」

「ファイヴカードだ。偶然にもジョーカーが紛れていたようだな。ルールに反した私の負けか? 」

 DT将軍は黙って広げられたカードを集めた。先程までその姿を見せなかったジョーカーがこの場になって現れた。

― インチキ? それとも、偶然?

 王子の声が聞こえた。

「戦争にはルールは無い。戦況を変えるジョーカーの出現も有るだろう」

「ですがエビス様」

「なんだ? 」

「物資欠乏は偶然には解決しません。このままでは軍内部に混乱が生じます。近隣諸国への援助要請はできませんか? 」

 国内の備蓄品は尽きかけている。しかも、闘いの相手は人間の敵であり、いわば共通の敵であった。なのに、近隣諸国からの援助は皆無と云っても良い。

「やってみよう。しかし」

「『あまり期待するな』ですね。王子の女狂いの所為ですよ」

「そうでは無い。政略結婚の所為だ」

 DTの指摘にエビスは恥じる様子も無い。

「政略結婚でバツ50なんて、周辺の国々にナニの種を植えに行ったのですか」

「ナニの種だ」

 王族にとって当然の事だ、と云わんばかりにエビスは腕を組む。

「子種だけだったらまだしも、喧嘩の種を植えに行かれてはね。甚だ、迷惑な種違いです」

「言うな」

「周辺国との安定を図らずに、乱してきた事をエビス様はどうお考えですか? 」

「愛の為、仕方無い」

「御姫様達への愛も結構ですが、民への愛もお忘れなく」

「ああ。明記しておく」

「それでは私は軍務に戻ります。御公務をお続け下さい」

「解った」

立ち上がったDTは整ったカードの山札に一瞥をくれて部屋を出ていった。

「民への愛、公務か」

エビス王子は立ち上がり、窓際に近寄った。見ると、甲冑に光を反射させながら、黒馬でDTが駆け去るところだった。

「過去の指導者たちは民を愛し、その生活を保護した。敵を排し、富を得る。臣下の栄華を極める事が指導者の公務だった筈」

エビスは窓際から離れた。整ったカードの山を乱暴に払いのける。テーブルを滑り、床に散らばる幾枚のカードたちを踏みつけ、王子は手にした地図を広げた。

地図には戦況が記されている。


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