第10話 ジョーカー
10 ジョーカー
「うわ、ヤバ! 囲まれちまった」
「ミキコ様、どうしましょう? 」
「『どうしましょう? 』って、愛剣も無いし、逃げられそうもありません」
帰路の途中、砂漠の真ん中でミキコとBGは敵と遭遇してしまった。
「そうですか? あの襟巻を広げた奴、走るの遅そうですよ」
「BGは襟巻トカゲの実力を知りませんね。奴らは二本足で恐ろしく早く走るのです! 」
「じゃあ、諦めますか? 」
「それは嫌。BG、どうにか出来ないかしらね」
ミキコとBGは賢者の洞穴からフニラ王国を目指していた。
BGは教会に戻りたがったが、強すぎる責任感からミキコから離れられず、渋々ながら付いて来たのだった。
二人にじりじりと詰め寄る日差しと巨大なトカゲ達。その集団のリーダーらしきトカゲが襟巻を広げ立ち上がった。干乾びた椎茸のような口を開ける。
「ヤロウドモ! 今日ハゼッタイニゲナイゼ! 」
「オーウ」
「ミキコ様、奴ら『逃げない』って言いましたよ」
「聞き間違いよ! 『逃がさない』っていったのよ。アタシ達大ピーンチ! 」
「日中の砂漠横断はやはり無謀でしたね。目立つし、しかも暑い」
「あのね、BG。あんたはアタシの肩書知っているでしょ? 」
「えーっと、軍師さまでしたね」
BGは振り絞るように云った。
出会った当初はまだしも、ミキコは次第に軍師のイメージから遠ざかっている。
「そうなのよ! 軍師は作戦の立案で、実行は将軍がするの! 」
「つまり? 」
「つまり、実行するのは苦手って事よ」
恥じる事無く、ミキコは言った。そんなモノかと、BGは何となく思う。
「それでは今から僕が実行役をいたします。作戦を下さい」
「こんな状況で出ないわー」
「随分と、投げやりですね」
こんな軍師を重宝しては、フニラ王国はこの戦いに勝つ気が無い様に思える。
「じゃあ、僕が立案、実行をいたします。それで、よろしいですね? 」
「是非、お願いするわ」
そして、BGは腹部のポケットを探り始めた。
「あれー。おかしいな~」
「BG! お約束の小芝居は止めて。早くやっつけてよ! 」
「え? はいはい。もうしばらくお待ち下さい」
カクカクと口を鳴らし、足を震えさせ、範囲を狭めるトカゲ達。
「はーい。ドーン、ドドーン」
ポケットからBGが取り出したモノはデカイ人型風船だった。描かれた人物はどれも眉が太く凛々しい。筋肉隆々としていかにも逞しい男達だった。
だが、所詮は風船である。唖然としたミキコはBGに尋ねた。
「この風船人はナニ? 」
「ご存知ありませんか? 有名なスーパーヒーローです。さらにもう一体。ドーン」
今度は緑色の武闘家がポケットから現れる。白いマントで身を包んだ姿である。
「さらに、さらに」
次々と取り出すBG。カクカクする襟巻トカゲと自分たちの間に、フワフワとただ漂うスーパーヒーロー風船を並べた。
「で、さらに」
BGは手にしたリモコンボタンを押した。壁となり、立ちふさがるヒーローたちが言葉を発した。
「一子相伝、暗殺拳。いたたたた」「アカンコーサッポー」「モッ。コリ、モッ。コリ、モッ」
ヒーロー達は喧しい。
「オヤブン? 」
喧しヒーローを前にトカゲ達は弱気になった。広がり始めた子分トカゲの不安な囁きにリーダーは決心をした。
「オレガマッサキニイクゼ! ミテイロヨ」
先陣は俺様だと、リーダートカゲは一人のヒーローに飛びかかった。干乾びた口で噛み付き、鋭い爪を突きたてる。
途端に、爆音がした。
リーダーの爪攻撃が、そのヒーローの柔肌を突き破ったのだった。傷を負ったヒーローは爆音を発して、「いたたたた」と何処かへと消えてしまった。
子分トカゲたちは親分の戦いを縦長な瞳で見ていた。
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