第16話 継承
16 継承
「今も言葉、父上のお言葉だとは思えません」
突然の声に、三人は振りむいた。視線の先にエビス王子の姿が有る。
「王子様! 」
クレナイが叫んだ。駆けよ寄ろうとして、厚い埃に足を滑らせる。
「おーっつ、ムスコよ。逞しくなったなあ~。ところで嫁はまだか? 」
は出に転がったミキコを一瞥し、バードは久々に出会った息子の顔を見つめた。
「50回ほど、離婚いたしました。そんな事より、先ほどのお言葉は本気ですか? 」
「何がだい? 」
「『この世界は人間だけの物では無い』というお言葉です」
「違うの? 」
「父上のお言葉だとは思えません」
悠然とエビスが繰り返す。
「なんで? 」
「他人から国も財産も恋人も奪い尽くした父上から、そんな言葉が出るとは考えもしませんでした」
「それはさァ、過去の事でさァ、若気の至りさ。反省もしているからでさァ、云わんといて」
息子の言葉にバードは頭を掻いた。
「反省など、しないで下さい」
「………。 」
頭を掻く指が止まった。
「胸を張って自分は偉大な国王だと誇って下さい。略奪すら、民への愛情だった筈です。いまこそ、その民への愛を説いてください」
「それって、“ラブ・アンド・ウォー”かい? 」
エビスは頷いた。
「女を、富を愛する事は自然です。増える、増やしたい事も自然な事。つまり、それを果たす為の争いも自然な事である筈です。人間の繁栄はその自然である行動の結果です。間違ってなどいない」
「そーだけど、汚染された大地、激しい砂漠化も自然の流れだと言えるのかなぁ」
「はい」
「好き勝手の結果、人間さえ暮らせない土地だらけだぜ」
「それでも、過去の王が民を愛し、繁栄を望んだ結果だと信じます」
「………。 なるほどなぁ」
「国民を想う事は未来に向かう勇気です。過去の結果を省みる事にだけに捕らわれ、それを恐れていては人間の繁栄は止まります。繁栄は未来にあります。そして未来は未知です。未来を知る程、人間は全能なのでしょうか? 失敗をしない程、人間は完璧なのでしょうか? 未熟である人間が己の繁栄を信じ、生きた事が誤った事でしょうか? 」
「………。 違うわいなぁ」
若干の間の後、重々しくバードが口を開いた。
「正直、俺はよくわからねーんだ。考えても、考えても分からなくなっちまった。だから何も信じられねー。でも、お前は違うなあ」
バードは赤い上着の首元を緩め、楕円型の首飾りを取り出した。
「コイツをお前に譲るよ。ナニ、洒落たモノじゃねえが、一応、国王の証しだ。コイツをお前に遣る。ま、手を出しな」
バードの元にエビス王子が近寄っていった。
「これを手にした瞬間から、フニラ王国の国王はエビスだぜ。軍師ミキコ、見習い神父のBGよ。この場の証人となってくれぃ」
「か、かしこまりました。ケ、ケホ」
咳き込みながらもミキコは応じた。神妙な顔つきのBGがその脇に佇む。二人の面前でバードはエビスの首に首飾りをかけた。
埃が漂う部屋の中、首飾りは褐色に輝いた。
「で、これはオマケだ。なんかの役には立つだろうよ」
バードは埃が積った隠し度を開け、宝箱を取り出した。ふーっつ、と息を吹き、埃をのけるとその蓋を開いた。
中から、楕円型の神具を取り出す。
「王位継承者にこの神具を贈る。フニラ王国に伝わる国宝だとさ」
無言で頭を下げ、エビスは両手を差し出した。宝物は首飾りに反応してか褐色の輝きをまき散らす。
「これで王位は完全にエビスに移ったぜぇ。ま、アルセスも分かってくれるだろうよ」
厚い埃を踏みしめ、バードは窓に近づく。そのまま、クモの巣が張った窓を開けた。
外からの風は部屋に積もった埃を舞いあげる。舞い上がった細かな埃に、四人は咳き込み、喘いだ。
風は吹き込み、四人は喘ぐ。そんな四人の耳に、戦場へ向かう兵士たちの行進音が聞こえた。
「ゴハッ、そうでした。直言に来たのでした」
行進音で従来の目的を思い出したミキコは、バードに向かって膝を付き進言をする。
「国王様、我軍の指揮を私にお預けください。ゴハッツ」
「ごほごほほ、国王はあっちだよぉ」
咳き込むバードがエビスを指さした。
「そうでした。エビス国王、私にも出撃の機会をお与え下さい」
「ダメだ。会議で決定したようにDT将軍が総指揮官だ。軍師は王宮で待機してくれ。ごほほん」
「そんなぁ」
「ありゃりゃ。一瞬の差だったなー。俺様が王様だったら可能性もあったのにねー。ごほごほほ」
唖然とするミキコに容赦なく埃は降り積もる。むず痒さに耐えられなくなったミキコは派手なくしゃみをした。
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