最終話 未来
18 未来
「いてて。迂闊だった」
頭を振りながら起き上がるDTの左腕は力なく垂れ下がり、裂けた傷口から血が溢れていた。
― どの位の間、気を失っていたのか………。
DTは霞む目で周囲を見渡した。味方の兵は無い。考えがまとまらず、記憶があやふやだった。だが、切り立った崖を目にした途端、DTは全てを思い出した。そして、自身の傍らにある怪鳥の死骸にも気が付いた。
― 馬鹿鳥が! 地面に突き刺さってやがる。
地面に突き刺さる怪鳥に蹴りを呉れた瞬間、靄がかった気持ちがすっきりとした。同時に忘れていた筈の激痛が、左肩に蘇った。
― 怪我か。この痛みでは相当な深手だな。
DTは傷口を押さえ、辺りを伺った。怪鳥に襲われたとき、振り回した刀は何処にもない。恐らく、翼の衝撃で何処かへ飛ばされてしまったのだろう。
― 丸腰か。
DTはその場を離れる事にした。留まっている事も考えたが、この場所は自軍より敵軍の来る可能性の方が高い。しかも、指揮していた軍勢は危機的状況にあった。
DTは痛みに耐え、ふらつく足取りで怪鳥から離れた。怪我と痛みで、不安げに仰ぎ見た空は澄み渡り、強烈な日差しが刺していた。
その凶暴ともいえる日差しの中を、千切れた布切れがひらりひらりと舞っている。馬鹿鳥が自分からむしりとった布きれであろう。DTにはその舞い降りる布きれが、自分と重なって見えた。
― 自分はこの布地と同じく、この地へ落ちる運命なのかもしれないな。
DTの力が抜ける瞬間、強風が布きれを何処かへ攫った。布きれはあっという間に天空へと吹き上がり、消えた。
吹き上がる風に身体を支えられて、DTは笑い出した。
― らしく無いな。怪我をしても自分は此処に居る。この足で立っているではないか!
「私は生きているようだ! 」
DTは風の中で叫んだ。生きているだけで、怪我も丸腰も大した事では無い様に思えた。
DTは力のこもった瞳で正面を見据えた。その先に、岩山を超える唯一の道がある。DTはこの道が何処へ続いているのかを知らない。だが、躊躇する事無く駆けだした。痛みを物ともしない逞さで地面を蹴りつづけた。
― 死なぬ。
DTは駆けながら思った。
軍事で抗う事だけが抵抗では無い。軍事力を失った事は敗北では無い。
― 死なずに生き続ける事。それが、生命の抗いなのかもしれないな。
考える事は沢山あった。だが、今は生き残る事に集中したい、とDTは思った。
了
少年、少女、未来。 メガネ4 @akairotoumasu
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