第11話 再会
11 再会
砂漠は遮蔽物がない。だが、ミキコ探索中のDTがその小競り合いに気が付いたのは偶然でしかなかった。
「あれは? 」
遠望強で襟巻トカゲに囲まれた二人の人間を確認する。途端、愛馬を走らせた。数機の騎馬がその後に続いた。
― ミキコ。生きていたか!
馬は砂煙を巻き上げ駆け寄るが、進みは鈍い。その間にもトカゲ達の包囲網は狭まって行く。DTは焦り、愛馬を急かすが、細かい砂漠の砂は蹄をさらに飲み込むだけだった。
その時、爆音が響き渡った。
― なんだ?
霧散するトカゲ達に混じり、人影が陽炎のように揺れている。
― 人影?
先程は確認できなかった人影に、疑問を抱えながらもDTは愛馬を駆けさせた。
「ミキコ様。トカゲは撤退しましたよ」
BGの声にミキコは目を開いた。周囲には風船ヒーローや、トカゲ達の姿は無い。泡を吹いたリーダートカゲだけが砂の上に伸びていた。
「スーパーヒーロー達は何処へ行ったのです? 」
ミキコは立ち上がり、尻回りに付いた砂を払う。
「ポケットの中に戻しました」
BGは答えた。
「ただ、シロウを犠牲にしてしまいましたが、仕方ありません」
「それにしても、BGのポケットは色々な物が入っているのですね」
「はい」
「以前、空を飛んでいたのもポケットの中から出した道具ですか? 」
「はい。コレの事ですね」
BGは取り出すと頭に着けた。途端に身体が宙に浮く。ミキコはその様子を眺めて言った。
「なんだよ、飛んで逃げれば良かったじゃん」
「ミキコ様、何か言いました? あれ、どなたかいらっしゃいましたよ」
空中に浮かんだBGは無い上がる砂埃を見つけた。何者かがこちらに向かっている事は間違いが無い。
「敵ですかね? 」
ミキコも砂塵を確認した。その表情には遭遇戦となれば、すかさず飛んで逃げる決意が満々である。
「トカゲでは無く騎馬ですね。人間のようですけど」
騎馬、人間と聞いてミキコのテンションは上がった。
「マジですか! あっつ、DTだ! ショーグーン。ここでーす」
目視で確認できる距離に近づいた騎馬に、手を振るミキコ。その元にDT達がたどり着くのは直ぐだった。
「ミキコ、無事だったか」
褐色の肌を汗で光らせDTが叫んだ。
「軍師の君が一人か? 兵はどうした? 誰もいないじゃないか! 」
「崖上の戦いで我が兵は全滅しました。私は崖を転がり落ちて助かりました」
この時ばかりはミキコも辛そうだった。自分の采配が甘く、兵を殺された事をずっと悔やんでいたのだ。
「そうだったか。まあ、でも、軍師一人でも助かってくれて嬉しく思うぞ」
DTはそれ以上の追及も慰めもしなかった。軍事に完璧など無い。
「ええ、それより王子様はお元気ですか?」
「ああ、またバツを一つお増やしになった。元気だ」
「うわー、記録更新ですね」
「皇族としては史上初だろう。それより、先程までいた人間たちがいないようだが………。 」
「ああ、ヒーロー達ですか。彼らはBGのポケットの中です」
「BG? ポケット? 」
「ええ。この少年がBGです。不思議なポケットを持っているのですよ」
DTはBGを見つめた。見習い神父服姿の少年は礼儀正しく畏まっている。
「私はフニラ王国の将軍DTだ。軍師ミキコを助けてくれた事を感謝する。ところで、君は何者だ? 」
「はい、私はBGと申します。砂漠の教会の者です」
「砂漠に教会があったのか? 」
「はい。とても小さな教会ですので、皆様、ご存じないかも知れませんね」
「そうか。それから、ポケットとは何だ?」
「これです」
BGは腹部のポケットを示す。
「神の従者が用いたポケットです。その末裔である私にこのポケットは預けられています」
「それは、どんな働きをする? 」
「ピンチを救う道具が出てくるとお考えください」
「意味がよくわからないが」
「機会があればお見せする事ができるでしょう」
突然、倒れていたリーダートカゲが飛び起きた。驚く兵士や馬達を尻目に、リーダートカゲは一目散に駆け出していく。
「うわっつ」
「生きていたのか」
「追いかけろ」
騒ぎ立てる兵士達をDTは抑えた。
「無駄だ。砂漠での奴は我々より早い。BGよ。この場合、先程の『機会』にはならぬか? 」
「やってみます」
兵士たちの見守る中、ポケットから取り出した手には例の機械が握られていた。ハエ男から奪い、賢者の知恵で由来を知ったキーアイテムだ。
「そうだ、忘れていました」
ミキコがその機械に飛びつく。
「これを急いで王宮に届けなくては」
しがみつくミキコの姿は、BGの動きを妨げる格好でもある。
「く、ミキコ様。トカゲが逃げてしまいますよ! 手を放してください」
「あ、ごめん」
ハッとして、身を引くミキコだったが、遅かった。猛烈に砂埃を巻き上げ逃げていく、リーダートカゲの姿は、すでに遠い場所にある。
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