第5話 機械

5 機械


「バード様、何故こんな所に?」

「ミキコ様をお助けに来たのさァ。昔、塔に囚われた御姫様を助けた泥棒がいたじゃなーい」

 首を傾げるBGにバードは答えた。

「ミキコ様は軍師様です。御姫様ではありません。しかも、囚われてすらいません」

「カタ―いこと言うなよ~。師匠に似て、お前は真面目すぎるぜぇ。全く野暮な奴らだなぁ」

バードは手にしたモノをポーンと放り投げ、キャッチを繰り返す。その手にあるモノを見たミキコが目を見開き、驚きの声を上げた。

「バード様! その手にした物を見せていただけますか? 」

「これかい? いーよー」

ひょい、とバードが投げてよこしたモノをミキコは身体を張って受け止める。どうにかキャッチしたミキコはその機械を握る手を震わせた。

「こ、これは! バード様、一体全体どうやって、これをどうやって入手されたのですか?」

「あーん? 聞きたいの? 」

「是非に! 」

「えっとねぇ、途中でさっきのとは違うハエ男とでくわしてねぇ。ちょいと、そいつから拝借したのさぁ」

「拝借って、どうやって? 」

「擦れ違いざまに、ささとね。手が速いんだぁ、俺」

「なるほど」

 ミキコは納得納得と頷いた。

「で、その際、爆発はしませんでしたか? 」

「そう云えば、アイツ弾けたなァ。コイツ外した途端だぜぇ。余程、溜まっていたんだなぁ」

 感慨気なバードの頷きを無視し、ミキコは手にした機械を上下左右から眺めた。

「これには傷一つ、ありません。何故です? 」

「さーてねぇ」

「ミキコ様。この機械はなんでしょうか? 」

「え? ああ、よく見て下さい。どこかで見たことがあると思います」

ミキコはBGの正面に立った。両手を使い、そのヘッドフォン型の機械を広げて見せた。

BGは腕を組み、指先を顎に押し付ける。

「何でしょうね? ラップしながらドウビドウビする人達が使うモノにそっくりですが………。 」

「違います。ですが、BGはずいぶん物知りですね」

 以外だ、という視線をミキコはBGに向けた。

「ええ、アルセス様のお知り合いに物知りな方がいまして、その方から様々な事を教えていただきます」

「へー、そうなんだ」

「馬鹿な奴だよぉ、お前は。俺が言ったばかりじゃーんか。ハエ男から拝借したってなぁ。なあ、ガキんちょ司祭様」

「もう、馬鹿にしないでください。でも、そういえば、ダンゴムシも同じ機械を頭にはめていましたね」

「そうです。どの敵もこの機械を身体に着けています。フニラ王国軍はこの機械に注目していたのですが、入手ができませんでした。なぜならこの機械を敵から外した途端、敵自身が爆発してしまうからです。その爆発に巻き込まれ、たくさんの被害が出ました」

じっと手にした機械を見るミキコ。そして、この機械がハエ男の頭にあったと云う事実を頭から必死に追い払う。

「この機械の働きを解明できれば王国軍は形勢有利になる筈です」

 ミキコは明瞭に言い切った言葉とは裏腹に、機械からじわりと滲みだす油っ気が気になっていた。手にある不快な感触が気持ち悪い。

「ですが、爆発に巻き込まれた科学者は多く、今のフニラ王国ではこの機械の解明は困難な状況です」

 苦い顔でミキコは呟いた。悔しいと気色悪いの表情には簿妙な違いだけがある。

「一体、どうすれば」

 葛藤中のミキコに軽薄な声が掛かった。

「そーんな事かぁ、簡単さぁ。あの糞爺さんに聞きにいけばいーじゃんよぉ。爺さんは糞だけど、超、物知りだからなぁ、機械の事も知ってんだろぉ」

「そうですよ、ミキコ様! あの方にお見せになればきっとその機械の謎が解けます! 」

「BG達の言う通りですよ、ミキコ様。百足ならばその機械の謎をきっと解明してくれると思います。お伺いすべきです」

アルセスの声に三人が顔を上げた。階段をゆっくりと上がり、アルセスがその姿を現した。

「あっつ、アルセス様」

BGが慕う師の元へ駆け寄る。アルセスはその体を優しく抱いた。

そのまま、ミキコへ近づき、頭を下げた。ミキコも頭を下げ、返答をする。

「ミキコ様、ご無事で何よりです」

「先程はありがとうございます。凄まじい攻撃で驚きました」

「はい。永く封印をしていた技ですが非常事態だったもので封印を解きました」

「感謝します」

「ぷるっぷ、褒められちった。さて、BG。お前がミキコ様を百足の所へ案内するのです」

「ムカデぇ? 」

 ミキコは表情をひきつらせた。カエル、トンビ、ダンゴムシ、ハエ、そしてムカデ。この並びでは引き攣るのも無理は無い。

 おぞましさを吐き捨てるような言葉にアルセスは軽く笑い、ミキコの疑惑を打ち消した。

「ははは、ミキコ様、ご心配なく。百足は人間ですよ。先の話にあった物知り爺さんの名前です」

「そうですか」

 胸を撫で下ろすミキコ。鳥肌級の誤解が解けて表情も和らいだ。ふと、アルセスは自分を見つめる弟子の瞳に気が付く。

「何ですか? BG」

「はい。私よりアルセス様がご案内した方が安全かと思いまして」

 自分を直視する師の瞳にたじろぎながらも、BGは答えた。アルセスはその肩にそっと手をのせた。

「BG。自信をお持ちなさい。あなたならできる。それに、私とバードはこの教会を守るという使命があります。この使命が私たち二人に与えられた棘の道なのでしょう」

「カーッてに決めんなぁよ。ご都合主義の神様はウソ臭いぜぇ」

 バードの存在は空気のように軽い。そして言葉はさらに軽かった。耳を貸さずに、三人は話を進めた。

「さあ、時間は大切です。浪費する過ちをしてはいけません」

「そうですね。かしこまりました。私がミキコ様をご案内いたします」

「十分に気をつけて。神の御加護が有る様、祈っております。くぷぴぽ」

「くぷぴぽ」

微笑むアルセスとひがむバードに見送られ、BGとミキコは教会を後にした。


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