第7話 ムカデの話

7 ムカデの話


何百年も昔の事だった。

この国に孤独に悩む少年がいた。友人もいない。兄弟もいない。ただ独りの毎日だった。だが、少年には慰めがあった。それは野山に住む生物達だった。彼らは少年の友人であり兄弟であった。少年は彼らが傍にいるだけで満足だった。

しかし、いつしか少年は望み始めた。野に住む生物達と会話をし、共に笑い合う事を。生きる者なら当然のことだった。何者も孤独で生きていける程、強くは無い。だから少年は神に願い、そして祈った。

願い、祈る事。人々は誰に教わるでも無くそれを行ってきた。それもヒトとも思えぬ弱く、ちっぽけな生き物の時代からずっと。

この世界は、そして歴史はそう云った願いが重なり、創られている。だから、少年の祈りが神に通じることは、何の不思議も無かった。当然の事として、神からの使者が少年の元へ来た。

使者は時空を超える絨毯に乗り、引き出しの中から飛び出した。耳の無い満丸の姿だったと文献には記されている。その方こそ、BGのご先祖様だった。少年の前に降り立った使者は二大神の命で来たと語った。

アルセスの教会にある二大神と使者の像は後の世に造られた。口承にて伝えられた使者との会話をサンジェルマン伯爵が文献とし、残した。その文献を基にして造られた物だ。

使者は少年の前に仁王立ちとなり、訊ねた。

『望みは真か? 』

少年はすかさず頷いた。涙を流し、鼻を垂れ容姿を気にする事無くすがったと云う。

少年の望みを『良』とした使者は少年の望みを叶える事にした。ヘソの辺りに手を押し当てて、ある機械を取り出した。その際、何とも云えぬ心弾む音が響いたそうだ。

それがこの機械だ。だが、寿命は万物にある。やがて機械は壊れた。その衝撃に少年は天が割れたと思った。

少年は変わった。精進を重ね、優秀な学者となった。機械を直す為だ。そして、念願が叶う日が来た。

機械が直り、友が戻った。それだけでは無い。少年は自らの手で機械の増産を始めた。全ての生物達が笑い合う為に。


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