第13話 決戦前

13 決戦前


「BG、いよいよフィナーレです。勝つか負けるかしか無い戦いの始まりです! 」

 鼻息荒く、ミキコが言った。二人は並んで廊下を歩いている。

「意気込んでいますね。何かありました? 」

 若干、遅れ気味に歩くBGは元気が無い様に見えた。

「ありません。が、これからあるのです」

「それはどういう意味です? 」

「アタシが率いた大軍での圧勝。王国の危機を救った英雄としての未来。夢の様だわ」

「………。 ミキコ様。会議で寝ていましたよね? 」

「いいえ。多少、目を閉じていたかもしれませんが」

「だとしたら、ご存知の筈。会議で軍隊を率いるのはDT様と決定しましたよ」

「………。 本当? 」

「はい。ミキコ様は王宮で待機です。会議に参加していた皆の、満場一致で決定されましたよ」

「なんて事! すぐに抗議だわ! 」

「手遅れです。大事な会議を寝ているからいけないのですよ。はら、そこ。ほっぺの辺りに涎の痕がありますよ」

「だったら起こしなさいよ! 隣にいたのでしょう!」

怒りながらもミキコは涎の後を拭く。

「畜生! 王子がいたら、こんな事にならなかったのに」

「いえ、王子様いましたよ。会議の途中で『この急場を救うだけの、政略結婚を考えている』って発表がありましたよね」

「そうでした。そのショックで意識を失ったのだっけ」

「さあ、それはどうだったかな」

 BGは王国の人間達に幻滅していた。溌剌とした武人であるDTはともかく、50回も結婚に失敗した王子や、功名欲しさ満載の将軍たち。愛嬌はあるがどこか投げやりな軍師の姿はBGの真っ直ぐな心に息苦しさを感じさせる。

「苦労して持ち帰った機械の評価もイマイチでしたね。『野山の生物とお友達になれる機械? 生物の知能を高める? これをお前達のご先祖が作った? 畜生どもに余計な事をしやがって! この戦争はお前の仕業か! 』散々でした」

「そうでした。そちらのショックも大きかったです」

「ここでは厄介者扱いされますし、ミキコ様を無事にお届け出来たので私は教会に戻りたいのですが」

「えー。もう少し傍にいてよ。お願いBG」

「嫌です。それでは失礼します」

BGは王宮で痛烈に感じてしまったのだ。喧しく、汚らわしく、醜い人間の本性を。

― ご先祖様の気持ちが、ご理解できる気がします。

 BGはポケットを探り、道具を選んだ。

「ちょっと待った! 」

「うわつ! 何するのですか」

いきなりミキコがBGに飛び付いた。そのまま二人は、一緒にひっくり返った。

「いたたた、ミキコ様。突然なにするのですか! もう、早く降りてくださいよ」

「国王よ。国王様に直言するの! 」

 BGの言葉に耳を貸さず、ミキコは叫ぶ。

「え? フニラ王国には国王様がいらっしゃったのですか? 」

「そりゃそうよ。だって王子は王子だもの」

「おっしゃる通りですが………。 ずいぶん影の薄い国王様ですね」

「そうなの。アタシも会った事ありません」

 半身を上げたミキコは下敷きとなったBGの顔を覗き込む。近すぎるその顔に、BGは頬を赤らめた。

「そんな国王、本当に居るのですか? 逆に居たら問題じゃありませんか? 」

「うーん。どうでしょ」

「だって、公務を怠っているのでは無く、放棄しているのですよ」

「うーん。そうかも」

「とにかく離して下さい。僕は教会へ帰ります」

「それで、BGは愛を放棄するのですか? 」

「は? 愛を放棄って何の事です? 」

 今度はBGがミキコの瞳を覗いた。その瞳は潤み、揺れているかのように輝きを変えた。 BGの背筋に衝撃が走る。甘酸っぱい感覚が全身を貫き、いままでとは違った見方でミキコを見ている自分を感じた。

― 愛? まさか、ミキコさんは僕の事を!

 神の従者と云え、少年である。全身を貫いた甘酸っぱい誘惑に抗う事は出来なかった。そして、不器用なところも少年であった。

「かしこまりました」

 静かにミキコの身を払い、BGは立ち上がる。

「国王様に国民への愛を説かなくてはいけませんね。見習い神父としての役目をひしひしと感じます。くるっぷ」

 ミキコはその傍らに立ち、敬虔な信者のように首を垂れた。

「しかし、国王様は愛に関しては相当だとお聞きしています。“国民よ。産めよ、増やせよ、ラブ・アンド・ウォー”が心情でした。王子を見ていても分かると思いますが」

「ますます以て問題です。私は決心を固めました。ミキコ様、今すぐ国王様の元へ向かいましょう」

「いぇーす」

態度を一転させ、ミキコは跳ね上がる。BGを従えて国王の元へと向かった。その先にある王の間は、王宮の最上階にある。


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