12羽 動揺する天使と心
私とカレルドは、村の様子をもう少しだけ見て回った後、砦に帰ることにした。
来たときと同様、馬に跨り手を差し出すカレルド。手を伸ばそうとして私は一瞬、躊躇した。
「どうした?」
「ううん、何でもないです」
そう言ったものの、非常に気恥ずかしい。夫婦だの恋人だの婚約者だのと散々言われて変に意識してしまったせいだ。来るときにはそんな事は無かったはずなのに、今は心が落ち着かない。
そして戦争の兆候に気付いた、カレルドの哀しそうな顔がまた私の心を締め付ける。もしかしたら私は……。途中まで考えて首を振る。
手を掴んで馬上に引き上げられたが、意識しすぎて腕を回すことができない。
カレルドのベルトに手をかけ、体勢を整える。
「おいおい、危ないよ。ちゃんと掴まって。急いで帰らないといけないから」
「あ、はい」
腕を回すと、温もりが伝わって来る。身震いするほどの寒さでは無いが、カレルドの暖かさが心地よい。
「少し寒いからくっついてていい?」
思わず口にした言葉に、自分でも驚いた。
「ああ、少し走らせるから、丁度良い」
戦の事を報告しなくてはいけないと、そちらにばかり気を取られているのだろうか。私の言葉に振り返りもせずに答えるカレルドに、少し寂しさを感じた。
「ファラーナは武器は使えるのかい?」
唐突な言葉に、私は驚いた。
明日、向かう先が戦地になっていると想定しての言葉なのだろう。同行するという約束をしている私が、自らの身を守れないのであれば連れて行けない。そう言っているのかもしれない。
私も天界で、不測の事態に備えるという名目のもと、必修事項として戦闘訓練は行っている。得意ではないが平均よりやや上という程度の成績だった。但し、それは天使としての能力を使った場合だ。今の私にはその力は無いが、剣の扱いだけなら、そこそこいける自信がある。
「自衛程度なら何とかなると思います」
「十分だ」
カレルドの声が少し怖い。戦いという現実に向き合う心構えなのだろうか。
表現しがたい感情に突き動かされ、私は腰に回していた手で服をぎゅっと掴む。すると、何かを感じ取ったのだろうか、カレルドは手綱を持っていた片方の手を放し、私の手を優しく包んだ。
「どうかしました?」
添えられた手の暖かさに、私の頬が緩む。だが、私がどんな顔をしていようと、前に座るカレルドが今それを見ることは出来ない。
「大丈夫かい?」
私が怯えていると思ったのだろうか。カレルドが口にした言葉に、思わず私は小さく笑ってしまった。
その言葉は、私が貴方に言おうとした言葉だよ、と。
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