19羽 酒と天使

 この地域では、16歳からお酒が飲めるらしい。

 始めは飲むつもりの無かった私も、カレルドにつられて食事のついでに、と手をつけたまでは良かった。だが、その後、「寝るために」「カレルドの朴念仁に対する憂さ晴らしに」「もうやってられない」「天界なんて」と理由を変えて立て続けにジョッキを空にした。恐らく口実は喋っていないと思うが、カレルドに絡んでいた記憶が無いわけでもない。

 隣の席で飲んでいた年配の男性が、酒をあおる馬鹿な娘を呆れならが見ていたのを微かに覚えている。


 そう、飲みすぎて私は泥酔した。

 気が付いた時には、カレルドに背負われていた。そして安心してまた気を失うと、次に目覚めたのは、宿のベッドの上だった。当然、部屋には私一人。

 ランタンの灯は点けていってくれたようで、室内は見渡せる。

 最初は見覚えの無い部屋だと思ったが、よくよく見てみれば、確かに荷物を置きに来たときの光景に似ているし、荷物もそのまま置いてある。

 入り口の扉を見ると、意外な事に部屋の鍵はしっかりと閉まっていた。外側からかけるために、宿屋の主人に借りたのかもしれない。

 迷惑をかけたなと思いつつも、気持ち悪くてそれどころではなく、全く動ける気がしない。

「だめだ、寝よう」

 私は即座に諦めた。


 天界で私は酒を飲んだ事は無い。いや、天使の私がこんなに酔うのだから、きっと天界の酒と地上の酒は違う、と思う。ただの飲みすぎでは無い、疲れていたからだ、多分。そう自分に言い聞かせ、寝ようとする。

 だが、布団を被った瞬間、嫌な記憶が蘇る。

 そういえば。

 私は酒を飲みながら、カレルドに文句を言っていた。

 内容は記憶に全く無いが、酔った勢いで、自分の想いを吐露するような事をしてはいまいか。若干どころか、かなり心配になった。下手をすれば、面倒くさい女だと置いて行かれるかもしれない。

 いや、それとは別に、カレルドは酔った私に何もしなかったのか?

 気になったが、腰に手をあてた瞬間、即座に理解した。

「うん、何もされてない」

 腰の小剣用のベルトが装着されたままだという事実が、それを物語っている。

「……寝かせるのならせめて外してくれ……。無関心にも程があるわ」

 私は呆れ半分にため息をつき、そして不貞寝した。


 翌朝、起きたのはいいが、酒が残っているのか頭が痛い、気持ち悪いという状況に耐え切れず、私は魔法を使って体内を浄化した。といっても、全力に近いほどの魔法を、頭痛に耐えながらやったが、やはり効果は微々たるもので完全に良くなったとまでは言えなかった。

「朝からこんなに疲れて……、私何やってるんだろ」

 私は二度と深酒はしまいと、心に誓った。

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