13羽 天使の胸の内は
砦に戻ると、カレルドは慌ただしく隊長の部屋へと駆けていった。
私は馬を馬房に戻したあと、自室へと戻る。明日の出発に備え、荷物を買ってきたばかりの鞄に詰め込む。
気付かぬうちに私は鼻唄をうたっていた。
「ご機嫌だな」
隊長への報告を終えたのか、カレルドが扉を開けるなり、私の顔を見てため息をついた。
「入るならノックくらいしてください……」
「ああ、済まない。聞いたことがない曲だったんだが、妙に気になってね。ファラーナの故郷の歌かい?」
「ええ。そんなところです」
さすがに天界の歌です、とは言えない。地上の音階とはやや異なるので、音楽に詳しい人が聞けば違和感を持つかもしれない。
「ここに来たのは、これを渡そうと思って」
カレルドは手にしていた物を差し出す。
「剣、ですか……」
鞘に収まった剣と腰ベルト。私の自衛用ということなのだろう。受け取ると、ずっしりとした重みが手に伝わってくる。
「うん、我々の使っている物じゃ重いだろうから、
「これでも十分重いですよ」
笑顔で返すが、カレルドの表情は晴れない。
「もう少し、笑顔にした方がいいですよ。良い運が逃げちゃいます」
右手の親指と人差し指を一杯に伸ばし、カレルドの口元を押さえると、口角を上げる。
「何するんだ……」
苦笑いで抗議をするカレルドに、私はニッと歯を見せて笑う。
「苦笑いも笑顔のうちですよ」
少しでも笑っていれば、幸運は逃げていかない。これは私の信条でもある。
「小悪魔め……」
「失礼な、私は天使ちゃんですよ!」
「……はいはい、天使ちゃんは支度を終えたら夕食だぞ」
冗談っぽく言ったので、まさか本当の天使だとは思っていないだろう。しかし、私は小悪魔っぽいのかな、と少し反省した。
夕食には私達が買って来た食材が使われているらしいが、砦に居る兵士の人数で割れば、微々たる量になるのは間違いない。
一緒に食事をする私に向けられる騎士や兵士達の視線は、前日と変わらないが、気にしないように心掛けている。
「カレルドさん……」
「カレルドでいいよ。呼ばれ慣れないから、少々くすぐったい」
そう言われても、こちらとしては気恥ずかしい。頭の中ではそう呼んでいても、いざとなると思い切りがつかない。
「カ……カレルド……?」
「……で、なに?」
私のためらいをさらりと流し、食事の手を止めて視線を向ける。
「道中は野宿ですか?」
「なるべくそうならないように、村や街を経由していくつもりだけど、道中に危険が有ったりして迂回する場合には、そうはいかないな」
宿は、と聞こうとして止めた。多くの人が居る中で、部屋はどうするのかなどと聞ける訳がない。軽々しくついていくとは言ったものの、私は少しだけ後悔していた。
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