4羽 天使に与えられた仕事
私に案内された部屋は、お世辞にも綺麗と言えるものではなかった。何年も使われていなかったのだろう、埃が積もり、カビ臭さがあった。
「独房かなんかの方が綺麗なんじゃないですか?」
私がそう言うと、カレルドは困った顔をする。
「ここしか空いてないんだ。独房はここより汚い」
そう言われて、私はため息をついた。
窓はあるし、独房よりもマシか。何日かは世話になるのだ、仕方が無い。
天使の力が使えれば、魔法の力でそれほど苦労もせずに部屋を浄化できただろう。けれど、もうそんな事もできない。
魔法を使ったところで、さっきと同じように、ほんの少しの効果しか無いに違いない。
私は諦めて、カレルドと一緒に部屋の掃除を始めた。この砦で最初に与えられた仕事、と言ってもいいかもしれない。
「ファラーナ、君は何歳なんだい?」
掃除の手を止めず、カレルドは質問してきた。
私達天使は人間の10倍程度の寿命を持つ。天使だって死ぬのだ。罪を犯さなければ、魂は前世の記憶を無くすももの、また天使として生まれ変わる。
私は175歳。人間で言えば…
「17歳」
「そうか……」
「どうしたんですか?」
何やら言葉に詰まる様子だったので気になった。
「いや、生まれ故郷に君と同じ年の幼馴染が居てね。少し思い出してしまった」
後ろを向いているので、その顔は見えない。
どんな表情をしているのだろうか。
「その娘さんの事が好きなんですね」
「んー、何というか、親同士が勝手に決めた婚約者ってやつでさ。俺がこんなんで、故郷に戻ってないからどうしてるかな、ってね」
カレルドは少し、照れ臭そうな顔をして振り返った。その純朴そうな顔に、一瞬ドキッとする。
私の好みの顔ではないんだけどな……。
「君は不思議な娘だ。こんな話をするなんて思わなかった」
苦笑いすると、カレルドはまた向き直って掃除を再開する。
「何だろうか、君のその優しそうな雰囲気に思わず口が滑った。忘れてくれ」
「ふふ…」
何だか分からないけど、思わず笑ってしまった。
「笑わないでくれ、…というか、ようやく笑ってくれたか」
そういえば、地上に降りてから、ちゃんと笑ったのはこれが初めてかもしれない。
しばらく…いや、もしかしたらずっと人間として生きていかなければいけない私は、人間としっかり向き合う必要がある。そのためには、いつまでも下を向いてばかりではいけない。
「やっと、少しだけ落ち着いた気がして」
私はこの地上で生きていく覚悟を決めた。
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