7羽 天使は囀る
「危険だと言うなら、君を連れて行くわけには行かない」
そう言われたが、私は引き下がらなかった。
何故、自分がそこまで固執するのかも分からず、あとに引けなくなった感もある。
二人は押し問答をしながら食事をすすめるが、食事が終わる頃には、結局カレルドが折れ、私を連れて行くことで落ち着いた。
食事を片付け、あとは寝るとなった段で、私は寝る前に、泥や、掃除でついた汚れを洗い流したいとカレルドに願い出た。
この砦の男達は近くの井戸から汲み上げた水を使って、外で体を洗っているらしい。さすがに女の私に同じ事をさせられないという事で、近くの川に行って水浴びをすると決まった。
隊長も外出を許可してくれた。
ただし危険も伴うので、見張り付きで、と。
確かに人間と大差の無い存在となった私が、害意のある者や、怪物や獣などに出会えば、切り抜ける手段は無い。
渋々それを了承したのだが、当然ついてきたのはカレルド。
「見ないでくださいね」
ちょっとだけむくれて見せる。
「分かった。ランタンだけ置いて少し離れた場所に居るから、なるべく早めに済ませてくれ。何かあったら声を上げてくれればいい」
カレルドは特に気にした様子も無く、苦笑いしながら木陰に隠れた。
着替えは期待して居なかったが、かつて女性兵士が居た際に使用したものが残っていたとの事で、それを貸してもらえた。胸周りが大分ゆるそうに見えたのは、気のせいに違いない。
服を脱いで川に入る。
「つめたっ!」
さすがにこのまま全身水に浸かる気にはなれなかった。
「井戸水の方が冷たいぞ」
木の向こうから声が聞こえる。
少し笑われたような気がして、何となく腹が立った。悔しいので、何とかそのまま川の水で髪と体を洗ったが、寒くてたまらない。
震えながら着替え終わったが、案の定、胸の辺りがぶかぶかだった。
「もういいか?」
「いいですよ…」
そう答えたものの、震えが止まらない。
カレルドは木陰から現れると、私の様子を見て自分の上着を脱いだ。
「これでも着るか?」
一瞬躊躇したが、悩んでいる場合ではないと思い、厚意に甘えて手を差し出した。
「ありがとう…ございます」
上着を受け取ると、いそいそと着る。
まだ若干温もりが残っていて、何だか妙に照れ臭い。
「あったかい…」
ひと心地ついた気がした。
「カレルドさんは寒くないんですか?」
「ん、歩けば暑くなる」
「それ、やせ我慢っていうんですよ。返しますよ」
脱ごうとすると、手を押さえられた。
「いや、大丈夫」
カレルドは赤くなって顔を背ける。
つられてこっちまで赤くなった…ような気がした。
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