5羽 掃除をする天使と夜
夜までには、部屋の掃除はだいたい終わった。あとは細かいところだ。
窓を開けて掃除していた分、換気は出来ていたが、それでも少し臭い。若干まだ汚れも残っているが、全力で魔法を使えば何とかなるかもしれない。
「ごめんなさい、私が来たばっかりに、迷惑をかけちゃったみたいで」
「いや、ここに居ても、訓練意外すること無いからね。訓練をサボって女の子と一緒に居たと思えば、御礼を言いたいくらいだよ」
ふと入り口に視線をやると、いつの間にやら部屋を覗く大勢の人たちが居た。
「………」
私の視線に気付いたのか、カレルドも同じ方向を見る。
「あ、こら! みんな、見世物じゃないぞ!」
カレルドは入り口の同僚達に向かって雑巾を投げると、大きく息を吐いた。
「ごめんな、この砦には女性の騎士も、衛生兵もいないんだ。女の子が珍しいんだよ」
そう言って苦笑いする。
「少しの間かもしれないけど居候させてもらうから、私も何かお手伝いします」
「君は何が得意なんだい?」
そう言われて困った。
料理…は得意だけど、天界と地上とは違う。
友人達と地上で人間になりすまして食事をしてみる予定だったが、それも果たせないままだった。
人間が作る料理がどういうものか、見た目は想像できるが、味も作り方も分からない。
掃除は今まで魔法に頼っていた分、手際が悪い。今それを思い知ったところだ。裁縫も、洗濯もきっとできない。
「なんだろう?」
言ってて恥ずかしくなった。
「じゃあ、隊長に相談してみるよ。とりあえず、食事はこの部屋に持ってくるから……」
「いいんです、皆さんと一緒に食べさせてください」
「そう……か? さっきみたいな事になるぞ」
私は無言で頷いた。
「後で呼びに来る。部屋には一応、鍵もあるから、ちゃんと施錠してくれ」
カレルドは掃除を終えて部屋を出て行った。
私は部屋に残されたが、泣いている暇は無い。使えるかどうかも分からない浄化魔法を使ってみようと思った。
「大気の力よ、地の力よ、水の力よ、我に力を与えこの地を浄化させよ」
部屋は湿り気を帯びた暖かい空気に包まれた後、爽やかな風がふわっと吹き抜け、残っていたカビ臭さが無くなった。
だが、カーテンの汚れは対して変わらず、床の汚れも薄暗い中でも分かるほど残っていた。
「ベッドの布団だけでも、臭くなければいい」
私はそのままベッドに倒れ込んだ。何故だろう、カレルドの出て行った部屋が広くて寂しい。
仕事でこんな場所にひとりで一晩居た事もある。その時に寂しいなど思ったことは無い。そうだ、寂しいのはきっと天界から落とされたせいだ。
「エミナ、ティエララ、ごめんね、私一緒に出かける約束守れなくなっちゃったよ……」
私が涙を流すと、ふわりと優しい風が吹いた。
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