概要
一言で言えば〈ウィスパー〉の思考は不安定だ。
言葉の間隔が普段よりも短く次々に返す時もあれば、お喋りが気に入らないと塞ぎ込んだりもする。その反応はまるで「ヒト」だ。
そして、わたしの名は〈エコー〉。
六番目の自律型観測ロボットに搭載された合成知能である。
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*カクヨムweb小説短編賞2019中間選考通過作。
*参考 : WIRED 2019.9.19 記事「人類の文化的躍進のきっかけは、七万年前に起きた「脳の突然変異」だった」
おすすめレビュー
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- ★★★ Excellent!!!文章は硬い。だからこそ、重く、響く。
この作品は出会いを描いた物語だが、それは人と人との出会いではなく、ヒトに近付いたAIと、ヒトから遠ざかった*****との出会いを扱っている。
「二人」は電波を介して「会話」を積み重ね、お互いの存在を確かめ合い、唯一無二の関係性を築いていく。
まるでそれは、本名も知らない、顔も見たこともないフォロワーとリプライを交わしながら、いつの間にかリアルな友人よりもリアルな友情(または恋情)を抱いてしまう我々の姿のようではないか。
詳しくは読んでからのお楽しみ。文章の硬さはあるが、その硬さがあるからこそ彼らのリアリティが立ち上がり、重低音の感動が生まれる。
読めば読むほど味わい深い、名作短編SF。 - ★★ Very Good!!感情の美しさに気付かされる作品
物寂しげで、けれど美しい月の描写。そこにいるのはヒトでないものだけ。
エコーとウィスパー、どちらもヒトではないからヒトと同じように思考することはできません。なのに彼らはお互いを理解し合っているというのがひしひしと伝わってきます。
そんな彼らが一緒に過ごす中で、ヒトではなかったはずのエコーがゆっくりとヒトに近付いていく。一つ一つ、エコーが自分をヒトたらしめるモノを獲得していく様子がまたいい。ヒトというのはこんなに美しいものだったかと舌を巻く程です。
細かい心境の描写は殆どしていないはずなのに、エコーが感情を一つ理解するたびにすとんと入ってきて思わず溜息が出てしまいます。
SFに興味がない…続きを読む - ★★★ Excellent!!!君と話すのに何が必要なんだろう
電話、メール、SNSと、コミュニケーションのツールは質量ともに進化を続けている。
でも、チャットの手段が増えるほど、テレビ電話の解像度が上がるほど、「伝わらなさ」への苛立ちや寂しさは募るばかりだ。私達は有史以来、最も孤独な人類なのかもしれない。
本作に登場するのは<ウィスパー>と<エコー>という「ヒト」ではない二人であり、彼(または彼女)らが持ち合わせているコミュニケーション手段は、我々から見れば不自由極まりないものだ。
しかし、彼らはそれを嘆くことはない。自分の思いが届くこと、相手の気持ちがわかること。その事実に純粋な驚きと喜びを感じている。その姿は、私の目からは羨ましいものに見えた…続きを読む