この作品は出会いを描いた物語だが、それは人と人との出会いではなく、ヒトに近付いたAIと、ヒトから遠ざかった*****との出会いを扱っている。
「二人」は電波を介して「会話」を積み重ね、お互いの存在を確かめ合い、唯一無二の関係性を築いていく。
まるでそれは、本名も知らない、顔も見たこともないフォロワーとリプライを交わしながら、いつの間にかリアルな友人よりもリアルな友情(または恋情)を抱いてしまう我々の姿のようではないか。
詳しくは読んでからのお楽しみ。文章の硬さはあるが、その硬さがあるからこそ彼らのリアリティが立ち上がり、重低音の感動が生まれる。
読めば読むほど味わい深い、名作短編SF。
物寂しげで、けれど美しい月の描写。そこにいるのはヒトでないものだけ。
エコーとウィスパー、どちらもヒトではないからヒトと同じように思考することはできません。なのに彼らはお互いを理解し合っているというのがひしひしと伝わってきます。
そんな彼らが一緒に過ごす中で、ヒトではなかったはずのエコーがゆっくりとヒトに近付いていく。一つ一つ、エコーが自分をヒトたらしめるモノを獲得していく様子がまたいい。ヒトというのはこんなに美しいものだったかと舌を巻く程です。
細かい心境の描写は殆どしていないはずなのに、エコーが感情を一つ理解するたびにすとんと入ってきて思わず溜息が出てしまいます。
SFに興味がない方でも是非読んでみて欲しい一作です。
電話、メール、SNSと、コミュニケーションのツールは質量ともに進化を続けている。
でも、チャットの手段が増えるほど、テレビ電話の解像度が上がるほど、「伝わらなさ」への苛立ちや寂しさは募るばかりだ。私達は有史以来、最も孤独な人類なのかもしれない。
本作に登場するのは<ウィスパー>と<エコー>という「ヒト」ではない二人であり、彼(または彼女)らが持ち合わせているコミュニケーション手段は、我々から見れば不自由極まりないものだ。
しかし、彼らはそれを嘆くことはない。自分の思いが届くこと、相手の気持ちがわかること。その事実に純粋な驚きと喜びを感じている。その姿は、私の目からは羨ましいものに見えた。
もしかすると、私達が求める最高のコミュニケーションには高度な道具も、高尚な表現技法も必要ないのかもしれない。
本作の登場人物たちと同じく、宇宙に浮かぶ孤独な存在である私達が、他の誰かとつながる喜びを再認識できるかもしれない一作。