仕事はなんじゃ?
「明日さ、この街のギルドに行ってみようと思うんだけど」
夕食の際、ナサリアが話を切り出した。
「なんじゃ、せっかく休みに来たのに、また働くつもりか?」
私は口を尖らせて不満を漏らす。元々、私は勤勉な方では無い。実験と悪戯といった趣味には労を惜しまないが、働くという事は嫌いだ。そもそも悪魔に勤勉な輩はそう多くない。
ちなみに、この人間観察は誰かにやらされている訳ではなく、後々の悪戯に役立てるためという、だたの趣味だ。だが、労働が混じるのはよろしくない。日々ぐうたらと転がっていても情報が入ってくるという状況だったら、どんなに良い事か。
「観光気分でひとつくらい受けてみない?」
「まあ、いつもの所より宿代は高いけどさ、その差額を埋めて余りある報酬が手に入るんだったらいいんじゃない? 温泉も楽しいしさ」
フィリアが意外に乗り気なのが解せないが、言っている事も一理ある。拷問施設ではないが、温泉自体は悪いものではない。若干、悪魔としての毒っ気が抜かれそうな気がしないでも無いが。
「皆が乗り気なら付き合ってやらんでもないが、面倒なのは嫌じゃよ。楽して稼ぐ、これ最高」
「寝てて金入ってくるなら最高だけどさ、そうもいかないしね」
「なんだ、意外と気が合うではないか」
今頃気付いたのかと言わんばかりに、ナサリアが苦笑いしながら私の顔を見る。いやいや、ポンコツエルフと一緒にされても困るのだが。
「そのへんの話は、酔っ払いどもに言わなくて良いのか?」
「酔っ払いなんだから、言ったって明日には忘れてるでしょ」
日頃大雑把にやっている割には、意外にしっかりした事を考えているものだ。いや、思いつきで行動している分、雑と言えば雑なのだろうが。
翌朝、朝一番でギルドの出張所に向かったナサリアだったが、早々に宿に戻ってきた。
「なんじゃ? いい依頼が無かったのか?」
「ん? あったよ。さっさと見繕って、手続き済ませてすぐ帰って来た」
有能なんだか、雑なんだか分からないあたりがナサリアなのだと思う。
「で、仕事はなんじゃ?」
「ああ、それなんだけどね。難しい仕事じゃないんだけど、依頼元に直接行って、詳しい話を聞かないといけないみたい」
「あん?」
持って回った言い方をするのが気になる。
「それじゃ何にも分からないじゃん!」
苛立ちを隠しきれずにフィリアが詰め寄る。私の言いたい事と同じなので特に止める気にもならないのだが。
「ごめんごめん、『邪悪なものの排除』とかいうざっくりしたものなんだよね」
「なんだそりゃ、何でそんな曖昧なもん引き受けてくるのさ!」
不満げに口を尖らせて文句を言う。黙って転がっていた奴が偉そう言えたものではない。
「だって、他に有ったのがワイバーン退治と、盗賊団退治と、遺跡に有るんだか無いんだか分からない宝の持ち帰りと、ムカデ退治なんだよ。これが一番マシそうじゃない?」
「「ムカデが一番!」」
思わずフィリアと声が被った。
「……いやだ」
さもありなん。アレだけ嫌そうにしていたのだから、選ぶはずもない。だが、せっかくの珍味を我慢するのは納得し難い。
「「替えて来い」」
「いやだ!」
こうなれば頑として聞くまい。私とフィリアは顔を見合わせ、同時に大きくため息をついた。
「で、それの依頼元はどこなんじゃ?」
「ここの教会」
「……あん?」
教会+邪悪なもの=悪魔。排除されるの私か?
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