思い出した
この怨念水晶、どこかで見たことがある形をしている。
「……は!」
「ん、どした?」
へっぽこエルフが私の顔を見る。
何だか変な汗が出てきた。この水晶、もとは私の物だったやつに違いない。悪戯に使い終わって、天気のいい日に窓を開けて日光で怨念を自然浄化させている途中、鳥に持っていかれたやつだ。あの時、面倒だからいいやと、追いかけずに放置したっけ。と、今思い出した。流れ流れてこんなトコに来ていたとは。まったく、何と言う因果かのう。
「ん……いや、なんでも……ない。これ、私が回収して、浄化……する」
「そんなことできるの?」
ナサリアが期待の眼差しを向ける。私は気まずいので、視線を外した。
「何か、怪しいな……」
何でいらん時だけ勘がいいんだ、このへっぽこエルフは。
「いや、日光に晒せば、浄化してただの水晶に戻る」
「へえ、詳しいね」
ナサリアが益々感心したように私を見る。
元々私の物でしたとか、使った事がありますとはさすがに言えない。どう誤魔化そうか。
悪魔でも嘘をつくときに、冷や汗くらいは出るんじゃよ。少々後ろめたさもあるしの。
それにしても、誰がこれに怨念を込めて埋めたのか。そこの所を調べる必要が有りそうだ。
そもそも、コレの使い方が分かる奴なんぞそう多くはないはずだが、そいつを探すのにも骨が折れそうじゃ。スケルトン騒動だけに、なんてな。
「なにニヤニヤしてんの、気持ち悪い」
「あん?」
今回、一番役立たずだった輩が偉そうに言うのでちょいとイラっとした。誰に物を言っているのか教えてやろうかいな。おっさんだって、もっとしっかり働いていた……ような気がするぞ。見て無いけど。
「とりあえずは、終わったから今日は解散しよう。報告は明日、私がしておくから」
「よろしく頼む」
ナサリアの言葉に同意する。私も何となく眠いので、さっさと宿に帰って寝てしまいたい。
「じゃあ、これは私が責任を持って預かる」
私が水晶をしまい込み、そこでこの日の仕事は終わり、四人は帰路に着く事になった。
「待て!」
ひとり夜道を歩きながら、手にした怨念水晶を見てため息をついていると、すれ違った男に背後から呼び止められた。悪魔である私を呼び止めるような知人など居ないはずなので、無視して先を急ごうとする。
「待てと言っている! 止まらんかそこのガキ!」
「ガキではないが、私か?」
ガキと言われて苛立つが、街中で派手な魔法を使うわけにもいかない。いや、無論使っても構わないのだが、それは最後の手段だ。もう少しこの街で色々と見てみたい。
飯も美味いしな。……あ、辛いモノは除くぞ。
「それは私の物だ!」
わざわざ名乗り出てくれるとは有り難い。こいつを突き出せば、一件落着って事じゃな。
「いや、これは元々私の物で、(鳥に)盗まれただけじゃ。お主のものではない」
私は男を睨み付けた。
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