私は偉大な悪……ま……
ナサリアとおっさんの後ろをついて歩くと、すぐに村長宅に到着した。
ナサリアがドアをノックすると、すぐに中から人が出て来る。
「はい、ご用件は何でしょうか」
出てきたのは白髪の女だった。村長の妻なのかもしれん。
「ギルドから、依頼を受けてやって来た者なんですが」
そう言うと、女は我々を一瞬眺めた後、僅かに眉をひそめた。そうだろう、それが普通の反応というものだ。
いかにも頼りにならなそうな連中だからのう。私を除いて。
「このお嬢ちゃんは?」
……私か!
「こう見えても魔術師なんですよ」
ナサリアが答えたが、老婆は言葉をあからさまに信じていない顔だ。
「私は偉大な悪……ま……ま……魔……術師だぞ!」
危ない。正体をバラすところだった。やるな、老婆。
なんじゃ、棒切れ!「あーあ、大事な所で咬んじゃったよ」みたいに憐れむ顔は!
「疑うなら証拠を見せてやろうか? どの家を魔法で破壊すれば良いのじゃ?」
「いえいえ、結構です。疑ってなどいませんよ」
明らかに狼狽える老婆。見た目で判断しようとするのが悪いのじゃ。
「親切に聞いてやらずに、この家を破壊すれば良かっ……」
ゴイン。
「いったーい」
何すんじゃ棒切れ。悪魔の私とて今の拳骨は痛かったぞ。星が飛んだぞ!
顔を見上げたら睨まれた。
あれ、もしかして心の声、漏れてた……? ……みたいじゃの。
「フフフフ……」
とりあえず笑って誤魔化そう。
家の中へ案内され、村長から話を聞くと、ゴブリンは村の西方から現れるとの事。巣はそっちの方角が怪しい、と。その後の言葉を要約すると、金払うからさっさと行って見てこい、だな。
冒険者っていうのは因果な商売だ。金を払うと約束すれば、あとはどこで死のうと依頼者には関係無い……蜘蛛の糸程の繋がりも無い。
私の持つプレートの男も依頼をこなす間に死んだのだろうか。悪魔の私にも、少しは憐憫の心というものが有る。何もしてやれんが……な。
さて、軽い情報を得たところで、早速調査に出発となった。
ちなみに私の足はまだ痛い。
一行はお構いなしに、村の西から森へと向かう。
「臭うな」
「何が?」
「獣臭さだ。それと多くの腐敗臭が混じった臭い。近くにゴブリンの生活域がある」
人間の嗅覚では分かるまい。
風が運んでくる森の臭いに、僅かに混じる程度だ。エルフなら感じ取れるだろう。
「うん、森の匂いに混じって不快な臭いが有るね」
ボンクラと思っていたが、意外に分かるようだな。
「おっさん臭?」
「このボンクラエルフが!」
見直した私が愚かだった。
今度はボンクラにも分かるはずだ。臭いの元が近づいてくる。何体だ?
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