お前が悪いのじゃ
私とボドルガは男を連れ、ギルドの前までやって来た。
夜中だけに当然、一階にある受付フロアは真っ暗で、扉も鍵が掛かっている。だが、ボドルガは上を見て、2階の明かりが点いている事に気が付いた。
「ちょいと裏口から、上に行ってくる」
そう言い残して、ボドルガは暗闇へと消えた。となれば、私にはやるべき事がある。男の知っている不都合な事実……。そう、怨念水晶が私の物であるという記憶を消し去るという、重要事項だ。
「悪く思うな。これを使ったお前が悪いのじゃ」
男の頭に手を当て、強力な念を送る。「
以前、我が家の近くにやって来た冒険者どもをぶちのめした後、必ず使っていたので私の得意魔法のひとつになっている。無論、無詠唱でも問題なくいける。
ちなみに、冒険者にはこの魔法とセットで別の記憶を刷り込むのが常だった。思い出したくも無くなる恐ろし恥ずかしい記憶を。
どんな内容なのか……。悪魔的拷問というか調教というか、そんなやつじゃ。多分、お子様にはお見せできない。あとは想像にお任せする。
記憶の消し込みが完了した頃、ボドルガが一人の男を連れて戻ってきた。
「こいつはギルドマスターだ。酒をかっくらって寝ているトコを叩き起こしてやったわい」
自慢げに語るボドルガの横に居るのは、足元もおぼつかない男。
「大丈夫か? こやつこんなに酔っておるが」
「このマスターから鍵を借りて、地下の拘留部屋に放り込んでおけば、何とかなるだろう。明日の朝、事情を話せば処分してくれるだろうさ」
ボドルガはにやりと笑った。
……忘れておったが、こいつも酔っ払いじゃった。
とはいえ、私もこういう「どうでもいいこと」は覚えておくのが苦手だ。事件は片付いたと思っているので、朝になれば男の事をきれいさっぱり忘れている自信が有る。
最悪の場合、男は地下の拘留部屋で発見されずに干からびて死ぬ可能性もある。
いや、この際、男がどうなろうと知った事では無い。だが、このままでは報酬が受け取れない。
仕方が無いので、男を拘留部屋に放り込んだ後、2階の事務室まで酔っ払いのギルドマスターと一緒に行き、書置きを残した。
翌朝、書置きが奏功したようで、男は事情聴取されたうえで自宅に調査が入ったっそうだ。その際に、今回の依頼意外にも様々な問題を起こしていた事が発覚したため、男の私財は没収され、即刻牢に入れられたらしい。当然、私の事など口にも出さなかったようだ。
我々はというと、その日の夕方にギルドから呼び出され、事情を説明された後、男に関するその他の報酬まで受け取ることになった。
つまり、呼び出されるまで私は男の事などきれいさっぱり忘れておった。ナサリアどもは、昼夜逆転が影響し、夕方まで寝ていたようだ。
「何だか、そこそこいい金額手に入っちゃったね」
手にした金に戸惑いながら、ナサリアが呟いた。
「私のおかげでしょ!」
偉そうに言う棒切れ。お前、何かしたか?
「いや、ボドルガのおかげじゃ」
「……ワシ、何かしたか?」
酔っ払いは記憶に無いらしい。だが、ナサリアに事情は話してきっちり報酬は渡している。この配慮たるや、悪魔にしておくのが勿体無いじゃろ?
いや、正直言うと、この酔いどれドワーフはポンコツエルフよりも余程役に立ったと思っている。
「いいから、酒代に受け取っておけ」
「ふむ?」
ボドルガは首を傾げた。本当に記憶に無いのか? まあいいか。
「で……、だ! この金で、温泉とやらに行こうではないか!」
昨晩思い立った私の願望をぶちまけてみた。
ああ、よだれが……。
「……は?」
私の欲望に塗れた表情を見た後、ナサリアとフィリアは顔を見合わせた。
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