内緒にしておいてくれよ
「おお、忘れていたわい。ワシの名前はボドルガ。ボドルガ・ドッドスカーだ」
「私はアルデリーゼじゃ。それでは、この不届き者を頼む」
互いに自己紹介を終えると、ボドルガと名乗ったドワーフは、怨念水晶で遊んだ男を担ぎ上げる。
何はともあれ、ボドルガがナサリア達の中で一番の常識人のようで、私としては少々戸惑っている。悪魔の知識としては、ドワーフというのは偏屈で頑固者という存在として知られているが、実際は違うのだろうか。それとも、このボドルガだけが違うのだろうか。
ギルドへの道を歩きつつ、ボドルガは私の方へ顔を向ける。
「ちっこい嬢ちゃん。いや、アルデリーゼだったか」
「なんじゃ?」
ちっこいとな? あんたも私と同じくらいの身長じゃろうが。とは思ったが口には出さない。大分人間界のマナーというものを覚えたじゃろ? 私、偉い。
「お前さん、竜骨かなんか持って居るな?」
「ん?」
何で分かるんじゃ?
だが、焦りを顔に出したら不味い。竜の牙の事を知られる訳にはいかない。
「何の事じゃ?」
「ワシは鼻が利いてな。と言っても、そんな物に臭いがあるわけじゃない。小さな波動のようなものを感じるだけなんだがな。まあ、隠すということは何か事情があるんだろうから、深くは聞かん。それを欲しがる連中も多いから気をつけな」
「大したもんじゃ。内緒にしておいてくれよ」
平静を装いつつも内心はかなり冷や冷やした。とはいえ、バレたところでこのドワーフを始末するか、本来の姿に戻り悪魔としての本分を果たすだけなのだが。
「で、お前さんの目的は何だ?」
「そう漠然と聞かれても困るのう」
悪魔と見破っての発言だろうか。一瞬、警戒を強める。
「冒険者なぞ、ろくなもんではない。定職に就いていたほうが生活も安定するし、他人にも心配も迷惑もかけずに済む。お前さんのような幼子が冒険者として生きる目的は何だ? 金か? 名誉か? ただの修行か?」
酔っ払いのくせに、妙に説教っぽいではないか。
「そう言うあんたは何じゃ?」
「ワシはただの趣味だな。面白いものを見て、少々の危険を楽しむ。それで酒代が入ってくる。話のネタにも困らんし、言う事なしだ」
自慢げに髭をいじりながら、楽しそうに喋るボドルガ。こやつを見ていると、ドワーフそのものの認識が変わりそうだ。いや、それでこそ観察し甲斐があるというものだが。
しかし面白い男だ。
「ふふふ、腐れドワーフが」
「おう、良い褒め言葉だ」
ボドルガはニヤリと笑った。私も馬鹿にしたつもりは無い。冗談が通じる相手と分かってるからこその言葉だ。
「私はな、色んな連中の生きている様が見たい。名誉など(悪魔には)要らぬし、金など日々の生活が出来れば(いずれ悪魔としての生活に戻るので)、それで十分だ」
「ませた幼子だのう」
ボドルガはガハハと愉快そうに笑った。
「ほれほれ、話に夢中で、担いでいる男の頭を引きずっておるぞ」
「おお、本当だ。禿げてしもうたかもしれんな」
「禿げても構わんが、人相を変えぬ程度にしてくれ」
冗談を言い合い、互いに笑った。
「で、あんたがナサリア達と離れておった理由は何じゃ?」
「おお、少々怪我をしてな、温泉に行っておった」
「おん……せん……、じゃと!」
私は温泉というモノを見た事が無い。
噂に聞くところによると、男女の逃避行に使われたり、熱湯に浸かり我慢したり、動物と混浴し、潜って泳いで酒を飲む場所という、実に魅力的な場所だというではないか。
更には、時々噴き上げる湯を浴びることで火傷をさせたり、首まで砂に埋めて拷問したり、泥を塗りたくって苦しめたり、湯が出るまで穴を掘らせるという、悪魔の拷問場所に最適とも聞いておる。
「おお、わくわくするのう、行ってみたいものじゃ!」
「お前さん、何か勘違いしとりゃせんか?」
ボドルガの視線が何故か冷たかった。
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