今回だけじゃからな
ゴブリンの1匹が金切り声を上げた。
仲間を呼んでいるに違いない。
「仲間を呼んでる! 増援が来る前に片付けよう!」
フィリアが叫んだ。
分かっとるようじゃの。
しっかり戦えば、数が増える前に倒しきれるだろうが、この3人にそれができるか。
「私は見てるだけでもいいか?」
「攻撃するか、サポートしてよ!」
「過重労働じゃろ? 私の分はキッチリ働いたぞ」
おい、聞いてるかナサリア。
聞く耳持たずに、剣を構えて突っ込んで行きおった。
あのな、重ね重ね言うておくが、悪魔に「サポート」する魔法なんぞ期待するなよ。そんなもん覚えてると思うか?
ああ、そういや、さっきのも言ってないか。
「ほんじゃ、攻撃すりゃあ、ええんじゃろ? 面倒くさいのう」
寄ってくる奴らは、悪魔光線で退治してやるか。
いや、嘘だ。無いよ、そんな技。
お、向こうでナサリアが1匹切り倒した。
ぬぼーっと歩いていたおっさんが、一瞬で2匹を切り倒した。おっさん、やるのう……。
フィリアは……おお、弓か。ボンクラエルフが失敗せずにできるのか?
と思ったら、ちゃんと木の上の奴に当てたな。
あれが仲間を呼んでいた奴か。
一匹逃げていったから、近くに居る奴はこれで全部退治したのだろうな。
機会を見て攻撃してやるか、と思って居たが、案外簡単に片付いたな。
助けを求めに声を発していた方向と、逃げて行った方向が一致しているから、そっちに集落か何かが有ると見ていいが……。
「行くか? それとも戻るか?」
フィリアの顔を見る。
その視線はゴブリンが逃げていった方に向けられたままだ。
聞くまでも無いか。森を荒らされて黙っているような性格では無さそうだしの。
「あの二人は、もう向かっているしね」
苦笑いしながら歩き出すフィリア。
「まったく、相談もせずに先に進むとは。仲間を何だと思っておる」
まあ、悪魔が仲間意識などと説教をたれるのもおかしいがの……。
「ナサリアは、ああいう風に敵が居ると突っ込んで行っちゃうんだよね。彼女、自分自身は守れるんだけど、その分、周りに迷惑がかかるから」
「だから、仲間が集まらんのか」
納得した。
腕も悪くないし、胆力もある、と思ったが無謀の類か。長生きせんの。
「まあ、悪い娘じゃないから、放っておけないんだよね」
「気苦労が絶えんの……」
「そうだよ。今回は何処からか、こんなつるぺた拾ってくるし」
笑顔で私を見る。
「なんじゃ、棒切れ。その顔」
「まあ、もう少し付き合いな」
「……ふん」
悪魔を信用するなよ。今回だけじゃからな。
「何、笑ってるのよ……」
笑ってたのか、私?
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