第六章 ドワーフの追跡
#アシスタントD3342PA備忘録
地球は一〇〇年来の禁足地です。でもそうだとしたら、いま満面の笑みでシンの鼻先に猪肉を差し出すゴブリンたちは、いったいどこから来たのでしょう。
もちろんシンに貢ぐのは結構ですが、つい先ほどまで走り回っていた生物を殺害し、解体し、串に刺して火で炙ったような代物は控えて欲しいものです。検疫と消化酵素の生成に気が遠くなりそうです。
地球は極端な環境改変を強いる生物をすべて排除しました。その筆頭である人類が残留しているはずがありません。当然、
内惑星軌道に設置された封鎖環を掻い潜る方法があるとすればですが。
何らかの社会実験である可能性はあるでしょうか。いえ、それもあらゆる面でシミュレーションの方が安全で合理的です。
論理的に考えれば否定しかありません。ですがシンはそれ以外を懸念していました。およそ費用対効果の見合わない、愉悦が目的の場合です。
人道的な問題はこの際おいて、馬鹿げた妄想に莫大な資産を投じる変人をシンも私もよく知っています。地球を囲えるほどの強大な資産家が悪趣味なテーマパークを創ったとしたら――フースークはその筆頭容疑者です。
あの得体の知れない資産家は、初めから地球に関して何らかの情報を知っていたのかも知れません。
もちろんシンの懸念は身近な変人に基づく帰納的妄想です。善悪の彼岸にいる酔狂人の考えなんて、シンには想像しようもありませんから。
ただ、そんな者たちが地球を舞台にミドルアースを造ったのなら、創世の逸話に何らかの手掛かりがあるかも知れません。
神様を気取る連中なんて、得てして目立ちたがりに違いありませんからね。
*****
ガリオンを加えた一行は大事を取って山道を北西に外れた。
そこにはもうひとりの代闘士が駐留しているらしい。
ニアベルがいた方が心強い、何せ残りの代闘士は文官だ。そう説くガリオンはニアベルの擽り方を心得ていた。
ただガリオン曰く、シン個人の記憶はともかく、異人ゆえの無知であって危急に治療が必要なわけではない。少し言い方は引っ掛かるが、ニアベルはそれで呆気なく納得した。オレもそう思っていたがな、などとしれっと強がりまで言った。
ルトがこっそり囁くには、ニアベルの本来の目的はシンに
無骨な見かけによらずガリオンは学者肌だった。知見は勿論、理解力と思考の柔軟性はニアベルと比べ物にならない。シンにしてみれば、ガリオンが加わって有用な情報源が増えるのは心強かった。
その一方、係わりが増えるのも面倒で、シンの心情は複雑だ。
ただ、
ガリオンとの会話が増えたせいか、ニアベルがやたら間に割り込むようになった。話に入るというより物理的に擦り寄って邪魔をする。気付けば他のゴブリンたちも、そわそわとシンの周りに陣取っていた。
それで勝手に満足しているのだから楽なものだが、さすがにルトやヘスが無駄に周りをうろうろするのは鬱陶しかった。
「我々の事情など、碌に教えて貰っていないのではないか?」
ガリオンは道々そう訊ねたが、シンは頷く他にない。
もちろん積極的に知ろうとしなかったせいもある。慣れない野外生活に追われて――というのは言い訳で、改まって切り出すのが億劫だったからだ。
「何を言うか、オレはちゃんと教えたぞ」
ニアベルが不服そうに口を挟んだ。ルトが耳を振ってで余計な相槌を打ったのか、いきなりニアベルに蹴られた。
「だって、そんなのはみな郷で習うぞ」
ほらな、とばかりにガリオンはシンに目を向けた。
「まあ、確かにここいらでは人に無闇に事情を訊いたり話したりするのはご法度だ。『知りたがり』と言ってな、卑しい性分なのだ。こと人の素性や一族の生理なんぞは話の度を超すと争いにもなる」
地雷は間近にあるものだ。億劫でよかったとシンは胸を撫でおろした。異なる種族が暮らす所以か、確かにその傾向は感じていた。ヨアなど無理に好奇心を抑え込んでいたようにも思える。ニアベルだけは遠慮がなかった。
「
その先は素性の偏見に関わる事柄なのか、ガリオンは声を落とした。
「確かに余所者には難しいだろう。いや、そもそも余所者というのが難しいな」
太い指先で自分の耳をつつく。
「みな自然とここで分かるからな」
やはりセンシティブな地雷原は耳の動きが読めなければ察知できないようだ。シンは肩を竦めつつ、一方で社会の息苦しさが心配になった。
彼らには共感性による相互理解がある。耳は随意に動かせず、感情に嘘はない。だが逆手に取れば互いの感情は筒抜けだ。むしろ耳を隠すのは後ろめたさを含意する。
あえて耳を隠すのは、貴人か障碍を持つ者、あるいは人外だけだという。
〈はて、彼らの言う人類の範囲に関心がありますね〉
アシスタントは別の所に興味を惹かれたようだった。
〈私とシンは通じ合っていますから。彼らの共感性など糸電話のようなものです〉
ガリオンの語るところを分析するに、彼らの不随意な共感性が大規模な村社会や同調圧力、知識欲の禁忌といった偏った社会を形成しているようにも思えた。だが一方でそれは常識や道徳といった強固な表看板も掲げている。(見掛け上)原始的な社会で、宗教もなしに確立していた。
アシスタントはともかく、日常的に他者に心情を晒して生きる社会はゾッとしない。だが生まれながらにその内側にいたなら、シンも人との距離を測らずに済んだのかも知れない。
この世界では耳がなく、もといた世界では距離が読めない。結局シンはどう足掻いてもコミュニケーション不全らしい。
〈常々思うのですが、時折シンは私の存在を忘れてしまうようですね〉
シンはおざなりに相槌を返した。どうせいまさら気にすることでもない。
だがガリオンもこうした自分たちの社会を外から捉えているように見える。天衣無縫のニアベルとは正反対の方向で村社会の制約がなさそうだ。
「シンにとっては幸か不幸か俺は捻くれ者だ、姫さまと同じ変わり者だよ」
ガリオンは笑ってそう言った。最初に会ったのがニアベルたちやガリオンだったのは、結局のところ運がよかっただけかも知れない。
〈単に選択権がなかっただけのことですよ〉
アシスタントは呆れたように呟いた。
ガリオンの所用で立ち寄ったのは山間の小さな集落だった。行き先を変えたことで若干の距離は増えたが、道の起伏は少なくなった。
ようやくシンの目にも獣道が判別できたものの、細い山道に変わりはなく、人通りはほとんどない。時折り樹々の隙間から小さな畑の手入れをするゴブリンを見掛ける程度だった。
ドワーフの身体は頑健そうだが、ゴブリンほどに山歩きは得意ではないらしい。ペースは早まることなく、索敵を兼ねた休憩を幾度か挟んで、ようやくガリオンの目的地に着いた。
田畑の分だけ距離があり、どこまでが集落だかは分からないが、見渡せば幾棟かの建屋が見える。鶏や兎が人より多い。住人のほとんどはゴブリンのようだ。
道々にも見たがように糧は農耕が主のようだ。ゴブリンといえど狩りだけを生業にしている訳ではないらしい。
カーミラによると平地に暮らす者が大半で、主に狩りを生業にするのは鎮守を祀るニアベルたちのような山のゴブリンだという。これもまた最初に出会ったのが例外だったようだ。
ゴブリンといえど獣のような肉食一辺倒ではなく、食事には穀物や野菜も並んでいる。消化酵素もあるようだ。ニアベルと二人のときは偉そうにシンに山菜を押し付けたくせに、自身はカーミラに葉物を食べろと叱られている。
ガリオンは集落の古家に用があるらしく、里に入るとひとりで出掛けていった。一服ほどで済むとのことで、皆は手近の家に預けられた。
民家は木造りで硝子は少なく、開口は木と紙でできていた。辺りは炭と土と畜類の匂いがする。そこは平屋で縁側が長く、皆で一列に並んで振舞いの碗を抱え込んだ。甘くはないが香ばしい茶の類だった。
まるで親を待つ子供のようだ。シンは呆けながらも憮然とした。
思えば子供の姿を見掛けない。集落すべてを見渡した訳ではないが、辺りではヨアとニアベルとヨアが最年少だ。住人は年寄りばかりという訳でもない。子供は学校にでも行っているのかも知れない。
いつの間にかシンの脚の間にニアベルが座り込み、何食わぬ顔で茶を啜っていた。陽の匂いのする髪が擽ったくも鬱陶しい。
〈ダニが付くかも知れません、さっさと排除してください〉
*周辺情報解析
アシスタントにプロンプトを流して、シンはぼんやりと目の前の畑を眺めた。俺はこんな所で何をしているのだろう。そう我に返る手前で思索を手放した。
「シンは大根が好きなのか? あれは辛いぞ、煮ないとだめだ」
ニアベルはもぞもぞと顔を上げ、シンを見上げて勝手なことを言った。
「それより鶏の卵を貰おう、『エフィル』の餌で飼っていれば生で喰えるぞ」
頻出するが未登録の語意だ。どうやらアシスタントは視認するまで取っておくつもりらしい。ともあれゴブリン、ドワーフに次ぐ主要種族であるのは確かだ。どうやら生化学的な技術に秀でた印象がある。
「だめですよ」
言葉は少なくカーミラは耳先を振って懇々とニアベルを窘める。彼女によれば、こうした人の出入りの少ない集落には貯えがない。本来なら自身の分の食材や対価を持って訪れるのが常識だそうだ。
「ここは里といっても養いも商いもありませんから、自分の食い扶持だけあればいいんですよ」
そもそもゴブリンに限らず備蓄の習慣が希薄なのだという。よほど恵まれた環境にあるのだろうか飢饉への危機感が薄い。
〈何らかの環境管理下にあると思われますが、仕組みが分かりませんね〉
問えば『鎮守の主様』がいるからだと言うが、それが自然信仰か生態系管理システムなのかはよく分からなかった。
ただ彼らの財産に対する執着の低さは――それこそが
ニアベルを諫めるついでに隣に居ついたカーミラがシンに話し掛ける。
「そういえば、ガリオンさまにも頼まれたんですが」
そう言ってカーミラはシンに里と郷について語った。やはり規模や地域の差だけではなく、二者は社会的な役割が異なっていた。
郷はそれぞれの種族によって形態は異なるものの、概ね出産、養育、埋葬といった生死を担うコミュニティ。
一方の里では成人した種族が混交で社会経済を担っている。大規模な農、工、商業のほとんどがは里の役割らしい。それはこの世界が抱える根本的な課題の故に成立したのだという。
即ち極端な少子社会だ。里と郷は種の存続と育成を効率的に分業する仕組みだ。
〈道理で子供の姿を見ない訳ですね〉
里の経済が郷に流入し、郷は育成した人員を里に供給する。その過程で実子や血縁の価値は遺棄され、むしろ忌むべきものになった。出会った当初に自身で「変わっている」と言ったように、ニアベルの郷が例外だったようだ。
「それが拗れてこの騒動になってるんですけれどねえ」
恐らくカーミラの耳先は冷笑を表している。
郷里の爛熟した関係性はやがて郷に貴族的な特権を生じさせた。二者に上下関係が生じた訳だ。やがて経済的に発展した一部の里が育成権を独占する郷に反発した。それが今の
街同士の抗争に巻き込まれたかと思えばフランス革命だったようなものだ。
話に飽きてそわそわと動くニアベルの髪を押さえ、シンは呻いて考え込んだ。
だがミドルアースに感じるそれは不気味の谷に似た居心地の悪さだ。多様性のひとつにしても、彼らの出自の不確かさがそれに拍車を掛けている。この世界が酔狂な何者かに創られたという疑いだ。
「んーん」
ニアベルが喉を鳴らした。気付けばシンは無意識にニアベルの髪を掻き回している。前の研究所で覚えた手癖だ。いつの間にか部屋に居着いた黒猫がいて、思索に嵌るたび膝の上に上がり込んだそれを無意識に弄っていたのだ。
ついやってしまった。
ニアベルが調子に乗って頭を擦り付けて来る。恐る恐る周りを窺えば、皆が茫然とシンを見つめていた。隣のカーミラと目が合うと、竦んでシンから目を逸らした。耳の先が赤くなっている。
これはどういった反応だ。シンの全身から汗が噴き出した。
〈シン、言っておきますが、法的制約はなくとも倫理的な問題が存在することは忘れないように。私が義体を得た暁には――〉
「皆どうした?」
こちらに歩いて来るガリオンがシンには神々しく見えた。
「用は済んだのか」
思わず自分から声を掛けるほどシンは焦っていた。
「ああ、お陰様で興味深い話が聴けた」
ガリオンは笑って応えたが、ゴブリンたちの気拙げな様子を見て耳を欹てた。
皆との間にどのような情報交換があったのか知りようもないが、シンはあえて目を逸らした。ニアベルだけが能天気にぐるぐると喉を鳴らしていた。
「何と今ごろそんな話か」
シンに聞かせたのが郷里の違いとカーミラに教えられ、ガリオンは呆れたような声を上げた。
「俺たちが
「馬鹿にするなガリオン、そんなのはとっくに教えたぞ」
ニアベルが口を尖らせる。確か聞いた。ニアベルの自慢話だった。
ガリオンは疑わし気にニアベルを眺め、ふうと大きな息を吐いた。彼らの耳は確かに正直だが、それはあくまで自分の感情に対してであって、決して客観的な事実ではない。無自覚と思い込みはこの世界でも無敵だ。
「そもそも闘議での決着は故事に倣った特別なものだ。双方に落としどころが見つからなかった場合に行われる」
ガリオンはそう説明を始めた。
「我ら代闘士は里ノ王、郷ノ皇らの代理を務めるが、裁定以外では家の仲裁や罪人の討伐を行う役職だ」
ガリオンが学者として雇われたと言ったのは、そういう位置付けだからだろうか。名称と出自と役割が裁定という舞台のせいで変質したのかも知れない。
「『バルター』が
ニアベルがシンの脚の間でじたばたと自慢げに暴れる。
「『バルター』?」
「
人名らしきものについて訊ねると、ガリオンはそう言った。脳裏でアシスタントが登録を宣言している。
バルターはもともと
ただの港町だった
自ら貴人として里ノ王に就いてからは、瞬く間に近隣の里を取り纏めたという。
「新興の
「『スナムチ』?」
「シンは何にも知らないな、裁定者のことだ」
ガリオンに訊ね返すとニアベルが割って入った。どうやらガリオンとばかり話しているのが気に入らないらしい。ついでに矛先をガリオンに向けた。
「そうだった、おまえが
ぱたぱたと忙しなく動く耳がニアベルの鬱陶しい。シンが目の前の髪を押し遣るとニアベルは余計に燥いだ声を上げた。
「おっぱい女にはちょっかい掛けられるし皆と逸れるしで散々だった」
「『スナムチ』捜しではなく裁定場の下見です、姫さま」
カーミラにそう指摘され、ニアベルはきょとんとする。
「草しかなかった。でも、シンを拾った」
ニアベルは顎を反ってさかさまにシンを見上げた。縁側の陽射しに頭が溶けたのか、ニアベルはますます馬鹿になっている。
「そういやそんなことを言ってたな」
シンを窺うガリオンの目線はどことなく気の毒がっているようにも見えた。
「おう、裁定場で落ちてたのをオレが拾った。だからシンはオレのだ」
ガリオンは無意識に短い顎鬚を扱いて、ひとしきり唸る。
「裁定者は郷里に属さない調停役でな、こと貴人や世界そのものを断ずる裁定者を『スナムチ』と呼ぶのだ。かなり昔の話だが、前の『スナムチ』が降りた裁定場がその
ガリオンはそう説明した。
かつて東の盆地に栄えた
〈呼称を登録します、役職名:審神者〉
さすがにそれは今までと出典が違う。素直に預言者でよさそうなものだ。
〈語感とニュアンスを優先しました〉
アシスタントはしれっと言った。命名に関しては独裁的だ。
「でもバルターさまはそれに倣っておいでなのでしょう?」
カーミラがガリオンに問う。
「そうだな、だが審神者に何か宛があるとも思えん」
ガリオンは頷いてシンに短い一瞥を投げた。嫌な予感がする。
「話によると審神者は『囁きの珠』を聴いて裁定を下すらしい。その珠は霞の向こうに耳のない異人を映すのだそうだ」
〈これは野良猫の拾得物から救世主に成り代わるチャンスでは?〉
アシスタントの辛辣な皮肉は馬鹿々々しさの度合いを示していた。これは降臨神話の類の与太話だ。
この世界の住人はみな耳が長い。異なる者が耳のない姿で描かれるのは神話的にも理解はできる。角や三つ目など「人とは異なる」象徴のようなものだ。
だがシンの脳裏にあった想像は、この世界を造った
「いい加減なことを言うな、シンが審神者なら草原で伸びてたりしないぞ」
ニアベルが笑い飛ばした。
それはそれで腹が立ったものの、態度に反してニアベルが思い切りガーメントに爪を立てたせいでアシスタントが悲鳴を上げ、それどころではなくなった。
だがガリオンは耳を伏せ、神妙な面持ちで皆に声を落とした。
「そうかも知れん、だがシンを
長い前置きだったが、結局ガリオンが言いたいのはそれだろう。カーミラにミドルアースの社会を説明させたのもその下地だ。
シンが裁定に利用される懸念だ。故事に倣って儀式化しているのであれば、耳のない異人のシンは審神者役に最適だ。その逆もあり得る。降って湧いた異人を障害と見做して排除するかも知れない。
シンにとっては権力者に近づく好機でもあり、命を狙われる懸念もある。
「バルターは関係ない、オレの勝手だ」
ニアベルがいきり立った。
「シンを取り上げられるかも知れんぞ」
「シンはオレのだ、やるものか」
ニアベルはシンを椅子にしたまま手を振り回して騒ぐ。
「そもそも審神者なぞ一〇〇〇年も前の話ではないか。昨日の飯も憶えてないのに、そんなのを本気にする奴なんているものか」
ニアベルがふんすと息を吐いて乱暴にシンに寄り掛かる。ニアベルの頭がどすんと胸を打ち、シンは思わず小さく咽せた。舌打ちめいたアシスタントの気配と共に致死量の神経負荷ブリットが装填される。
*解除
暴発したらどうする。シンはアシスタントを留めて溜息を吐いた。ニアベルを押し退けながら、おまえも昨日の飯くらいは憶えていろと心の中でこぼした。
一〇〇〇年?
シンはようやくその違和感に気が付いた。ミドルアースの歴史の桁がひとつ違う。それでは地球が
少なくとも彼らの入植がここ一〇〇年以内でなければ辻褄が合わない。
つまり歴史が偽造されている。シンは造られた世界の綻びを見つけた。
*
〈徴証が不足しています、生体サンプルを収集してよろしいですか?〉
*承認
「おおう」
不意にニアベルが跳び上がった。
「虻がいるぞ」
尻を押さえながら不思議そうに縁側を振り返る。シンは無意識に同意したものの、どうやらアシスタントはニアベルからサンプルを取ったらしい。
ニアベルがひとしきり騒ぎ立てる中、ガリオンは判断をカーミラに預けた。シンの意思を確かめようとするカーミラの目線に、シンの答えは簡単だった。
「冗談じゃない」
間を置いてアシスタントがシンに告げた。
〈より多角的な検証が必要です〉
ニアベルを刺し足りないのかと思ったが、戸惑うような口調で口籠る。
〈現状の結論では満足いただけないと――〉
*類推を報告
抱えた矛盾に躊躇うように、アシスタントは囁いた。
〈彼らが
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