幕間 ミドルアース
岬に面した
足首ほどに短く草を刈られた草原の東西には、それぞれ郷里の陣が敷かれている。互いの姿が小さく見えるほどの広さだ。
中央に拵えた天幕は全周に幾重もの扉幕がある。今はその全部が巻き上げられており、まだ空席だが郷里の貴人、官吏、代闘士の座が見渡せる。
本来の裁定では帯剣の衛士はさほど多く必要とされない。だが今回は向かい合う人垣に武装した衛兵隊が層を成していた。これらは
郷里の兵力には歴然とした差がある。
その明らかに不平等な条件を
裁定の儀が宣言され、双方が中央の議場に歩を進める。そのとき番狂わせは起きた。
台地の縁に控えていたトロルが暴れ出したのだ。物言わぬ愚鈍な人足の巨人が、郷里の者を見境なく撥ね退けながら中央の天幕に近づいて行く。
双方のうちに
一方で
事故か策謀か、後者ならば何者の企みか。貴人のひとりが声を上げようとした折、
それは浮足立つ
誰もが呆然とするなか事態は意外な結末を迎えた。だが、それが混沌の始まりだった。
ガリオンとターヴはその光景に歯噛みした。二人は代闘士として
そこにニアベルの姿はない。事情を知っているのは二人と四人のゴブリンだけだ。そして恐らくその行方を知っているのは、裁定場の混沌を平然と眺め遣るバルターだけだろう。
当初、
衛兵隊はトロルを囲みつつ、
恐らくそれがバルターにとって、最後の許容点だったのだ。
バルターの合図とともに裁定場の周囲から複数のトロルが躍り込んだ。それは裁定場の整備に持ち込まれ、草原の縁に邪魔者のように留め置かれ人足たちだ。土を運ぶしか能がないはずの道具が一斉に動き出した。
トロルは
四方から侵攻するトロルたちは、まるで幼児が人形で遊ぶ如く片端から
怒号と悲鳴が草原に満ち、音そのものが割れて羽虫の音のように響いている。攻めるや逃げるや混沌と化した土煙に、トロルの巨体が浮島のように突き出している。まるで網の中の魚をいたぶる子供のようだった。
戦況は混乱した。いや、混乱していたのは
ガリオンの顎先の髭は擦り減って、もはや疎らに残っているだけだ。重い息を吐いて隣のターヴを見上げた。声を掛けようとして、その視線が戦場にないと気づいた。怒号が煙るその上を向いている。ターヴは空を見上げていた。
何事かとそれを目で追って顔を上げ、ガリオンは言葉を見失った。
混沌の中にも騒めきと沈黙が拡がっていく。皆が騒乱の空にあるものを追い始めている。まだ何も終わっていなかった。
いや、裁定は始まっていなかったのだ。
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