第13話 後日談
結局りょうさんはそのあと順調に回復して、一週間ほどで退院した。夏休み中の出来事だったのでサークル以外の人にはりょうさんが入院していたことはあまり知られていない。
これは後で聞いた話だが、りょうさんが入院してすぐ、サークルの友人とお見舞いに行った後の帰り道で僕は
「そういえば合宿以来会ってないけど、りょうさん元気かな」
と言い放ったらしい。
「いやさっきお見舞いに行ったところやけど!?」というツッコミを飲み込んだ友人が僕を連れて病院にUターンしたところ、僕の記憶からりょうさんが階段から落ちたところからお見舞いに行ったところまでの部分がすっかりなくなってしまっていることが判明した。
そこでサークルの皆は口裏を合わせてりょうさんが入院していることを伏せてくれていたらしい。僕はそれを聞いた時、申し訳なさと感謝の気持ちでいっぱいになった。
病院に連れて行ってくれた友人に後日お礼を言ったところ、
「純、りょうさんにすごい懐いてたからショックで全部忘れたんやろなってピンと来たわ」
と笑いながら言われた。
りょうさんが退院する日、僕は病院に迎えに行った。荷物の片づけなんかを手伝うためだ。良く晴れた日で、病室の窓から心地よい風が吹いてくる。夏休み中といってももう九月である。
どうやらりょうさんも、異世界では自分が階段から落ちて入院していることをすっかり忘れていたらしい。
「いや~、でもなんで病院で寝てるはずの俺が純のとこまで行ったのかは謎やねんけど、幽体離脱でもしてたんかな......ん、なんじゃこりゃ」
片付けをしていたりょうさんの手に切符のようなものが握られている。
「それ、例の回数券じゃないですか」
「わぁお」
”それ”は、りょうさんの手の中でゆっくりと消えていった。病室のカーテンが風にはためいている。長かった夏が終わろうとしていた。
異世界鉄道の旅 琥珀もどき @mochiko_m
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