第11話 僕の探し物

 意味が分からない。りょうさんはどこに行ったんだ?夢であってくれと思う。これは悪い夢だ。そうだ、全部悪い夢だったんだ。ホットミルクも、いろんな電車も、おいしいご飯も全部!でもどこからが夢なんだ?僕がりょうさんを家の掃除に誘ったのは夢か、現実か?


 分からない。でも一つだけはっきりしているのは、りょうさんがいなくなったということだ。


 涙が勝手に出てきた。ついでに鼻水も止まらない。涙と鼻水でもう顔がぐちゃぐちゃだ。りょうさんが一緒にいてくれたことが、あんなに心強かったことに今更気が付いた。


 周りを見渡すと一面しとしと雨が降っている。雨、階段。りょうさん。



.........思い出した。



 りょうさんと僕は元の世界で、夏休みのサークルの合宿に出かけていた。テニスをしていたら突然大雨に見舞われて、みんなで荷物を撤収して車まで移動することになったのだ。


 コートは山の上にあったので、車までは長い階段を下りていかなければならなかった。たくさん荷物を持った僕が滑って落ちそうになった時、とっさに腕をつかんでくれたのがりょうさんだった。ただし、僕を引き戻してくれたりょうさんは反動で真っ逆さまに落ちていった。僕の荷物の重さで勢いがついてしまったのだろう。落ちていくりょうさんがまるでスローモーションのように見えたのを思いだした。


 階段の下で倒れるりょうさんを見てから先は、途切れ途切れにしか思い出せない。ピクリともしないりょうさんのまわりに集まる皆。救急車。担架で運ばれるりょうさん。


 それから、病院のベッドに横たわって目を覚まさないりょうさん。


 僕の探し物は、この記憶だったのだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る