第6話 地下鉄
僕たちが乗り込むと、電車は音もなく動き出した。相変わらず貸し切り状態である。黄昏の島の往来はたくさんの人でごった返しているが、電車は誰にもぶつからずに進んでいく。
「りょうさん、おいしかったですね」
「せやなぁ、あの胡麻団子みたいのおいしかったなぁ......また中華でも食べに行こか」
「いいですね!楽しみ~」
本当のことを言うと中華どころか、元の世界に帰れるのかどうかも分からない。僕はそんな不安をなるべく気取られないように答えた。おそらく不安なのはりょうさんも一緒だ。
満腹だった僕らは、いつの間にか二人とも眠ってしまったようだ。
起きると電車は地下を走っていた。煉瓦の壁が続いている。ふと膝に目をやると、りょうさんが僕の膝で気持ちよさそうに眠っていた。全くこの人は......
起こすのもなんだか気が引けるし、他にすることもないのでりょうさんの顔を観察してみる。普段こんなにまじまじと顔を見ることもない。柔らかくてサラサラの髪に、色白の肌、切れ長の目、整った顔立ち。しかも器用で気遣い上手。恥ずかしいから直接言ったことはないけれど、僕の憧れの先輩だ。
「う~ん......なんやこれ......?ひぇ......純の膝やん」
あまりまじまじと見すぎたせいか、りょうさんが目を覚ましてしまった。
「いやドン引きせんといてくださいよ......僕のソフトな膝の寝心地はいかがでしたか?」
「まあまあかな......っていうか俺いつから純の膝で寝てたん?」
「僕もさっき起きたとこなんで分かんないです」
僕はすっとぼけた。
「あ、そうなん」
どっこいしょ、とりょうさんが起き上がったところでアナウンスが流れる。
「次は~本の国、本の国です。お忘れ物のないようご注意ください。本日は当列車をご利用くださいまして誠にありがとうございました」
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