第7話 賢者の館

 電車から降りると、目の前に巨大な洋館がそびえたっていた。淡い白色の石造りの外観で、横に長い。正面玄関の両側の建物には高さ3メートルはあろうかという大きな窓がいくつもあるが、どれもワイン色のカーテンが閉じていて中が見えない。どうやら電車に乗っている間に夜になったらしく、上を見ると満点の星空が広がっている。


 ゆるやかな階段を上って、大きな扉をそっと開ける。中に入るとすぐ、良く通る低めの声が耳に飛び込んできた。


「ようこそ。賢者の館、通称本の国へ。岡本遼さまと古河純さまですね、お待ちしておりました」


 正面のカウンターの向こうに、ホテル風の制服に身を包んだエキゾチックな美人が立っていた。肌は浅黒く、黒くて艶のある髪を夜会巻きにしている。大きな瞳に吸い込まれそうだ。......ところで、なんで僕たちの名前がバレているんだろうか。


 僕らの様子に構わず女性は続ける。


「それでは簡単に当館についてご説明いたします。当館には図書館エリアと宿泊エリアの二つのエリアがございます。

 図書館エリアでは図書をご利用いただけます。当館にはありとあらゆる分野と事象についての図書がございます。特定の図書をお探しの際は検索機をお使いください。尚、貸し出し及び宿泊エリアへの図書の持ち込みはできませんのでご了承ください。

 宿泊エリアでは休息及び睡眠をおとりいただけます。お食事はお部屋までお届けいたします。こちらがお部屋の鍵でございます。部屋番号の百の位が階数を表しております。お部屋まではあちらのエレベーターをご利用ください。何かご不明な点がございましたらお気軽にお尋ねくださいませ」


 渡された二つの鍵には何かの結晶のようなきれいなストラップと部屋番号のタグが付いている。二つとも701と書かれている。七階か。701の鍵しかないということは相部屋ということだろう。


「りょうさん、どうします?先に部屋行ってみますか」

「う~ん......俺はちょっと調べ物してから行こかな」

「......目閉じかけてますよ。一回寝ときましょう、ね?」

「......うん、やっぱりそうするわ」


 珍しく素直である。きっとこっちにきてからずっと気を張っていたのだろう。今にも寝てしまいそうになるりょうさんの手を引いて、エレベーターに乗り込んだ。


 エレベーターの中はしんとしていた。天井には星空が描かれている。四方の壁は金色と黒を基調としていて、重厚な空気が漂っている。


「りょうさん、もうすぐ部屋です。ここで寝たら置いていきますよ」

「えぇ~......急に雑になるやん......むにゃ」

「ほら、がんばってください」


 部屋の扉を開けると、部屋の天井も夜空の模様になっていた。ベッドは真っ白でふかふかしている。


 真っ白な布団に吸い込まれてりょうさんと僕は眠りに落ちた。








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