第3話 遺失物捜索所にようこそ

 りょうさんが扉を開ける。


 ぎぃぃ......


「暗くてよく見えないですね」


 蔵の中は意外にひんやりしていた。外の蒸し暑さが嘘みたいだ。暗闇に目が慣れると、そこには驚きの光景が広がっていた。


 僕らの目の前には、大きなカウンターがあったのだ。端が見えないほど横に長くて、つるつるした木でできたカウンター。その前面には精巧な彫り物が施されている。幾何学的で何の模様かはわからないが、まるで高級なホテルの受付のようだ。


 そして、いつの間にか背後にあるはずの蔵の入り口は跡形もなくなっていた。


「りょうさん、これ......」

「うん。とりあえず前見てみるしかなさそうやな」


 前を見ると、カウンターの向こう側には壁一面の棚があった。大小さまざまなものが一つの区画につき一つずつ収納されている。いや、展示されていると言った方がいいのだろうか。扉が付いていないので展示品が一つ一つよく見える。古びた本のようなものだったり、中折れ帽だったり、鉢植えの植物や真珠のネックレスなど、ざっと見ただけでも本当にいろんなものが置いてある。


 ぼーっとそれらの品々を見ていると、ふいに目の前に老人が現れた。


「お探しのものは何ですか」

「探し物......?えっと......強いて言うなら出口ですかね、僕たち蔵の入り口からここに来ちゃったみたいで」


 僕が答えると、老人は瞬きもせずにこう返した。


「出口はあなた方の探し物ではありません」


 いや、出口だろ。圧倒的に。それとも入り口というべきだったのか。口調は極めて穏やかだが、断定的な言い方をする老人の話し方に違和感を覚えた。まるで会話パターンが予め組まれた機械と話をしているような気分になる。


 混乱する僕に代わってりょうさんが口を開く。


「ここは一体何なんですか?」

「此処は遺失物捜索所です」

「遺失物......僕たちのなくした物がここにあるんですか?」


 りょうさんがそう尋ねると、老人は首を横に振った。カウンターの下に潜ると、静かに二枚の切符を差し出す。折りたたまれた回数券のような切符だ。印刷が所々掠れていてかなり古いもののように見える。


「この切符があなた方の探し物のところまで導いてくれるでしょう」


 出口はなさそうだし、訳が分からないけれどとにかく老人の言う「探し物」を見つけるしかなさそうだった。二人で切符を受け取ると、顔を見合わせる。


「探し物、見つけるしかなさそうですね」

「せやな」


 いつの間にかカウンターの奥は真っ暗になっていた。老人は消え、暗闇の中に電車が止まっている。僕らは意を決して電車に乗り込んだ。




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