第9話 寝台列車
『館内放送です。岡本遼さま、古河純さま。館内にいらっしゃいましたら、至急フロントまでお越しください』
フロントで鍵を返して館の外に出ると、入り口のところで電車が待っていた。しかもいつもの電車と違って少し豪華だ。受付の女性に見送られながら、僕らは電車に乗り込んだ。
ドアが閉まると、電車は空へ向かって上昇していった。
「おー、離陸したわ」
「なんか飛行機乗ってるみたいですね」
『本日は寝台特急アンモビウムにご乗車いただきまして、誠にありがとうございます。当列車の目的地は雨の国でございます。一両目は運転席及びエントランス、二両目はバー、三両目はレストラン、四両目は寝室、五両目はシャワールームとラウンジ、お手洗いとなっております。お気づきの点などございましたら各車両のスタッフにお気軽にお申しつけください。雨の国に到着するまでの間、ごゆっくりお楽しみくださいませ』
りょうさんがお風呂に入ったので、僕は暇になってしまった。確か電車に乗ったのは夜だったはずなのだけれど、いつの間にか窓の外は昼間になっていた。体感では一時間ほどしか経っていない。
レストランを通り抜けてバーの車両に移る。バーカウンターのスタッフは、頭に黒子のような布を被っていた。
「すみません、ここって時間の流れが速かったりします?」
僕は黒子のスタッフに声をかけた。
「左様でございます。当列車は時の隙間を縫うように走行するため、地上に比べておよそ十倍の速さで時が進みます。ですから外の景色ではなく、お客様が眠気を感じられたタイミングで睡眠をお取りになることをおすすめします」
「そうなんですね。どうもありがとうございます」
「とんでもございません」
「......あの、ということは、ご飯もお腹がすいたときに?」
「その通りでございます」
というわけで僕は晩なのか朝なのか、はたまた昼なのか分からないが、とにかくご飯を食べた。あとでりょうさんにも時間の進み方の話を教えてあげよう。
部屋に戻るとりょうさんがぐっすり眠っていた。僕はというと寝ようとすればするほど目が冴えるので、結局散歩がてらもう一度バーまで行って、ホットミルクをもらって帰ってきた。
「部屋で何かあったかい飲み物を飲みたいんですけど」
「ではホットミルクはいかがでしょうか。なんでも寝つきが良くなるとか。マグカップは起きたときに持ってきていただければ結構ですので......良い夢を」
ホットミルクをちびちび飲みながら窓の外の景色を見る。今は一面の星空だが、これももう少しすれば朝焼けになるのだろう。朝焼けのなかで寝られる自信がないので僕はカーテンを閉めた。
ベッドで寝ているりょうさんは寝相が良すぎて全く動かない。寝返りすら打たないので本当に息をしているか心配になる。こうやって身動きもせずにベッドで寝るなんて知らなかったな......いや、どこかで見たことがあるような気がする。でもどこで?本の国では僕より早く起きて調べものをしていた。サークルの合宿?いや、それもない。じゃあ一体......
そこまで考えたところで急に眠くなったので、僕は思考を放棄して眠りに落ちた。
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