第2話 りょうさんと僕

 結局おじさんには日が暮れる前に帰ってもらい、次の日に知り合いの先輩に来てもらった。僕が所属するテニスサークルの先輩で、二つ上の三年生だ。名前はりょうさん。大体いつも飄々としていてつかみどころのない人だが、なんだかんだ面倒見がよくて優しい。合宿なんかで部屋が一緒になったりしているうちに、気がついたら仲良くなっていた。説明すると長くなるので今はこれくらいに留めておこう。


 さて、片付けがひと段落ついたところでアイスでも食べようという話になったので近所の(といっても車で20分かかる)スーパーに来た。今は冷房の効いた車内で買ってきたアイスを開けているところである。


「りょうさん、ありがとうございました。すごく助かりました。正直りょうさんがあんなに器用に障子貼れると思ってなかったんでびっくりです」

「おん、ぜんぜんええけど一言多いねん......っていうかなんで俺なん?確かに純の家から一番近いけどさぁ、他にこう、めっっちゃ仲良しの同級生とかおらへんかったん?」

「いやなんかりょうさんが一番暇してそうやなって」

「オブラート前の下宿先に忘れてきたんか?」


 二人で顔を見合わせて吹き出した。ちなみにさっきのは嘘である。本当はりょうさんに来てほしくて、一か八かで連絡したのだ。そうとは知らずにりょうさんはキンキンに冷えすぎて紙のスプーンでは歯が立たないアイスと格闘している。が、諦めたのか恨めしそうにアイスを太腿の間に挟んだ。体温で溶かすつもりらしい。


「......ちょっと僕のやつ食べます?」

「いや、大丈夫。ありがと」


 太腿の間に挟んだアイスに無理やりスプーンを突き刺しながら、りょうさんが唐突に言った。


「そういえばさ、純の家になんかでっかい蔵みたいなやつあったよな?」

「はい、確か家の裏の方ですよね」

「このあとあの蔵、探検してみたくない?」

「......りょうさん、こういうのなんて言うか知ってます?」

「死亡フラグ」


これがりょうさんと僕の長い夏休みの始まりだった。

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