コンパクトにまとまった模範的なファンタジー小説でした。リーダビリティも高く、あっと言う間に読んでしましました。すごくよくできていると思います。細部にわたって設定が練られており、神話の織りなす世界観も読み応えあります。素敵な表紙と挿絵をつけて本にしたいくらいです。本物川小説大賞は深い!
「神は細部に宿る」と言いますが、その世界を際立たせるちょっとした細部の描写がもう少しあると、設定と世界観がより豊かになったような気がします。それは服装、食べ物、髪型、習慣なんでもいいのですが、日常当たり前にあるもので、でも我々には明らかに異質で心を躍らせるなにかがあるものです。
小説では過去の設定や世界観、登場人物をレゴのパーツのように自在に組み合わせて、全く新しく独創的なものを作ることができます。でも、そこにあえて手書きでなにかを書いたり、手作りのものを加えればさらに全体を際立つこともあります。
全くもって個人的な感想ですが、もっとマジックリアリズムに振って『アラビアの夜の種族』みたいなものにしてもおもしろいと思いました。
何よりもまずこの作品で一番好きな一文。
「おれを呪う力を、時には誰かを助けるために使ってもいいはずだ」
忌まわれて故郷を出て、それっきり。
孤独でいることが唯一好きな人に報いる道だと、長い時を独りですごした男が、片翼を見つける物語。
雪と色を使った表現が美しく、引き込まれたまま物語はクライマックスへ。
こう、鍋島作品の魅力は言語化できる物もできない物もたくさんあるのですが、鍋島さんの名付けのセンスがとても好きで、とりあえず冒頭三文字で僕はやられました。
これは願望ですが、主人公が生を全うする能力を獲得したんだったらいいなぁと思ってます。
「今回も良かったぞ鍋島ぁっ!」
という私の心の咽び泣きを添えて、本レビューの締めくくりといたします。
不意に涙が流れるような、綺麗な出会いの話でした。
報われなさそうな人が報われる話が好きです。救われなさそうな人が救われる話が好きです。それも、積み重ねの先に目指したところにたどり着くわけというではなく、どこか唐突に現れる報いや救いの話が。
そういうわけで、とても好きな話でした。
また、書きたいこととテクニックがうまく噛み合っている印象も受けました。導入部が特にそうなんですが、単なる説明になってしまうのではなく、印象的なビジュアルとキャラ紹介と背景説明が無理なく溶け込んでいる。また、固有名詞を象徴的な単語とルビで飲み込ませるのも、読者に負担があまりかからなくて良い。宝石や色彩のモチーフがある種の王道のファンタジー感の演出としても上手く嵌っていたように思います。文字数の制約がなければもう少し最期が綺麗に「膨らんで」いたのではないかという印象はあるのですが、総じてリーダビリティが高く、満足感のある作品でした。