第7話 巨大湖

「魔力強化は活性化させた魔力で体表を覆い、体内も活性化した魔力で満たした状態を言う。気も魔力も誰しもが持っていて、体内や精神に作用している。通常は沈静化している状態なので、活性化させないと強化にはならない。ここまでで、何か質問は?」


「はーい」

 全身鎧の美女が挙手。

「どうぞ」


「活性化とかちん…とかって、なんですか?」


「タクトの息子が元気な時が活性化。終わった後が沈静化だな」

「おお、分かりやすい!」

「リオさん!!」


「何かね、バカップル代表」

「いえ…」


 村から徒歩3時間強の位置に湖を作ってしまってから8日。

 俺達は強化の青空教室を再開した。


 あの翌日。村長や支部長に湖作っちゃったと連絡したら怒られた。

 急ぎ確認に向った村の男衆と、支部長の命令で同行した戦闘万屋達。

 俺の案内で到着すると、まだ水嵩が増え続けている巨大湖が。


 俺以外は急ぎ村へ戻り、各自の上役へ報告。

 新たな巨大湖の権利主張と運用方法を話し合ったらしい。

 俺は見張りに残された。


 3日後。

 急ぎ視察に来た領主が巨大湖に歓喜し、今の村をこちらに移すことを許可した。

 巨大湖製作の報奨だそうだ。

 領主からは都市開発のプロフェショナルが送られる手はずになる。


 その日から木材を運んで巨大湖の周囲に杭を挿して回った。

 俺とバカップルズが。


 爆力パンチの音と振動は当たり前のように村まで届き、相当な混乱を巻き起こしたらしい。

 寝る子は起こすし、家畜は暴れる。

 倒壊した建物こそなかったが、棚から物が落ちてかなり壊れた。


 ギルドタグ貯蓄から損害賠償を払い、バカップルズも同額出して謝罪していた。

 俺は独身男性共からサムズアップされ。バカップルズはタクトだけが、独身男性共から睨まれていた。


 当然金銭だけで解決するわけにはいかず、罰として巨大湖周辺への杭打ちが言い渡された。


 鎖を使っても3日かかり、今日から強化訓練が再開されたというわけだ。


 まずは強化の基礎から教えている。

 中には感覚派もいるので、そっちは実技の時に覚えてもらうしかない。


「と、これが強化だ。少し休憩してから実技に入るぞ」

 人の輪から離れ地面に大きく十字を書いていく。


 ポッポー


「休憩おわりー。気の使える奴はそこ。魔力の使える奴はそこ。両方使える奴はそこ。両方使えない奴はそこ。線の内側に入ってはみ出すなよー」


 気を使えるグループに移動。

「今から活性化した魔力を渡していくから、頑張って何とかするように」

「あの何とかって、どうすれば…」


「成功したら帰るまでに1度、タクトに抱きついてよし」

「ぜっっったいに、成功させてみせます!」


 こんな感じで気だけ、魔力だけ、両方使えないバカップルガールズに気や魔力を渡していった。


 夕方には全員気と魔力をコントロール可能になっていた。

 エサの効果が高過ぎて笑うしかないわ。


 翌日からは気と魔力を融合させて霊力にする練習。

 流石にこれは初日で出来たガールズは居らず、文字通りタクトの手を取って教わっていた。


 俺はタクトに気と魔力を与えるタンクでしたが、なにか?




 そこそこの日数が経過すると霊力化に成功する者も現れ、タクトの手間も減り指導効率も上がっていった。

 霊力化に成功したガールズは霊力強化の練習に変える。


 全く感覚が掴めない場合は魔力強化、闘気強化の順で反復させる。

 なお気力強化では根性論っぽかったので、闘気強化の名前にした。


 冬の厳しさもなりを潜めだし、若草が伸び始めた頃。全員の霊力強化に成功した。

 9割9分9厘、エサの効果だと付け加えておく。


「よくやった。霊力強化そいつは非常に消耗が激しいが、戦闘時の奥の手になる。細かな使い方は、みんな大好きタクト君に渡しておいたから、確認しておくように。」

「はい!」


「明日は霊力強化の最終訓練。俺との模擬戦だ、喜べ」


 いやーだー!もう、お終いよ。神よ、お助けください等々。どいつもこいつも好き勝手に悲鳴を上げてやがる。


「安心しろ。巨大湖作った強化はなしでやってやるから。」


 よしっ、それなら勝てる!死ななければ、回復いたします。アタイに任せときな。


「死なないよう後遺症が残らないよう、丁寧に戦闘不能にしていくから。死にものぐるいでかかってこい」


 俺、明日死ぬかもしれない。最後の晩餐でゴザルか。ウチ、まだ死にとうない。


 落差、激しいなぁ〜。


 タクト邸でわかれ、帰宅。

 食う、団欒、浄化、寝るの黄金コンボ。


「いや〜諸君。いい天気だねぇ〜。朝食はちゃんと採ったか?しっかり食べておけよ?吐くものないと辛いぞ?」


 既に誰も騒ぐ気力もなくなっている。

 何も反応せず、何も言わない。

 一応保険かけておくか。


「お前等には俺が居ない間、村の事を任せようと思っている。不甲斐ない戦いをしたら課題を出す。俺が認められるほどの戦闘が出来たら、俺の里帰りまでの間は自由だ」


 みんな、死力を尽くして勝つぞ!おー!やってやる、やってやるッスよー。


「昼まで作戦会議の時間をやるから、頑張って考えな」


「リオさん。準備が出来ました」

 覚悟を決めた顔でタクトが報告に来た。

 頷き返すとモテ男はバカップルに進化するために嫁さん達の下へ戻る。


「戦闘のルールを説明するぞ。まずタクト達は何でもあり。次に俺は巨大湖を作った強化はなしででいいな?」

「大丈夫です、問題ありません」


「よし、なら始めよう。位置につく時間はやる」


 タクトを戦闘に前衛、中衛、後衛、遊撃と散開していく。

「準備、出来ました」


 よしよし、ならばお見せしよう。俺のもうひとつの奥の手。前世からのお付き合い。

 都の役者はこんな風に叫ぶんだってな。


いでよ。我が魂、ファイス!」


 胸骨から長柄武器の石突が現れ、真上に登っていく。

 タクト達が呆気に取られているうちに、斧が鎌が現れ。最後の槍の切っ先が体から離れる。

 ゆっくりと石突が下に向いて、手を伸ばして柄を掴む。

 頭上で回転させてから、腰を落としてファイスを構える。


「さあ、やろうか」

 心落ち着かせた声で戦闘開始を促す。


「ちょっ、ちょっと待ってください。何ですかそれは!?」


「何って、どうみてもハルバードだろう?」

『絶対に違う!』


 今日もバカップルズは仲良しです

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