第13話 役者

 翌朝。


 自分とまだ寝ているレイラを浄化して、食事を作る。

 鎖の箱の1面の半分から鎖を移動させ、外へ出る。

 定番の保存食粥を作ってしばらくの間、相方が起きるのを待つ。



 料理の薫りに釣られたのか、レイラも起床した。

 袖なしのシャツにショーツ1枚で朝食を終えた後、鎖の箱の中から悲鳴がした。


「きゃあああああああ!」


 チームの盾は、朝から勤勉である。




「うううう。酷ですよ、リオ君は」


 昼も近いのにまだ言っている。


 あの後。大急ぎで着替えたレイラは、羞恥に顔を赤く染め俺を睨んできた。

 面倒なんで、無視した。




 昼は近いが、街の外での食事は朝夕のみ。

 水を飲むだけなら止まる必要もないので、トイレ以外は歩き続ける。


「あっ、リオ君。あの」


 トイレは小型の鎖の箱底面なしの中に、旅魔法の穴掘を使ってからレイラに明け渡す。


 俺は30メートル以上の距離を取り、レイラのプライバシーを守る。

 トイレってプライバシーでいいのか?

 尊厳?


 地平の先まで何もない場所なので、魔物や野盗の襲撃もない。

 平和である。


 合流したレイラに浄化をかけて、また歩く。




「あの、リオ君。もっと速く移動出来る方法があるんですけど。どうします?」


 数日後の朝。いざ出発、といったタイミングで唐突に聞かれた。

 若干、自慢気に。


「あるなら使っていいぞ?俺も使うから」

「えっ?」


「大方。鎧の足の裏が地面を滑るとか、大盾に乗って移動するとかだろ?」

「はうぅぅぅ。何で、わかるんですかぁ」


 前世のサブカルチャー知識です。

 ファイス作りにも、役立っていたようだ。


「まあ、いいです。後から乗せてって言っても、知りませんからね。装着!」


 先日の装着モーションはなく、一瞬で鎧兜と大盾姿になったレイラ。

 大盾を前に倒して、その上に座る。


 大盾は音もなく浮かび上がると、そこそこの速度で先に進んでいった。


 鎖を射出して安楽椅子の形にして座る。

 腹と襷がけに鎖を通してシートベルトに。


 浮いた安楽椅子が、大盾に乗った全身鎧を追いかける。

 なんてホラーだ。


 80メートルの車間距離を取って、レイラに続く。

 途中ゴブリンが少数襲ってきたが、槍を射出して終わった。


 夕方。

「リオ君。何ですか、あの鎖は?ちょっと凄すぎます!」


 ファイスを取り出し槍、斧、鎌、石突を鎖で繋いだまま分離してウネウネと浮かせた。


「どうみてもハルバードだろう?」

「絶対に違います!」


 便利なんだがなぁ…



 鎧のホバーモドキ移動もあるし、大盾は最高時速40キロ程度出している。

 かなり高性能な魂魄武装だ。


 持ち主が天然やら、たまに残念なのも。魅力と言えば魅力だろう。

 そんなレイラとの低空の旅も、一旦終了だ。


「折角チームを組んだんですし、もっと話しをしてお互いをよく知りましょう!」


 と、主張したからだ。

 なので。隣を歩いて、ゆっくり旅を続ける。


「俺は田舎の開拓村出身なんで、平凡に生きてきたから。特に話す事なんてないぞ?」

「リオ君が平凡なら、平凡でないのは英雄か魔王くらいです!!」


 強く否定された、何故だ!!

 仕方がないので前世、ファイスが神器という事、吸血鬼の変身能力は伏せて。俺の半生?を話した。


「あの精霊村の出身なんですか!」

「勇者の兄貴分ってリオ君の事だったんですか!!」

「ワンパン巨大湖って、どう言う意味ですか!?」

 とか。


 まあ、叫ぶは叫ぶは。

 相槌じゃなくて、ツッコミの嵐だったよ。

 それにしても、勇者の兄貴分って何だよ。


 なお英雄とは、勇者とは別で。偉業を成した者の総称らしい。

 女性なら英傑だとか。

 総称とは。


 ソロ活動してきただけあって、レイラはコミュニケーションに飢えていたのか。

 道中、質問責めにあった。


 質問はするが、聞かれるのはあまり望まないらしい。

 本人としてはさり気なく、会話を誘導しようと頑張っていた。

 話しのネタにと振っただけなので、話したくないなら聞くまい。


 大きな声で話しをするもんだから、森を抜ける道では同然のように魔物に襲われる。

 レイラは走りながら鎧を装着して拳で大盾を殴り、周囲に音を響かせて魔物を引きつけている。


 レイラが頑張って戦っているので、俺は鎖で空へ登り一生懸命応援した。

 昼から明け方まで戦っていた。


 最後の1体の魔物の狼を羽交い締めにしているレイラに、極細ワイヤーを使い糸電話の要領で声を伝える。

「森の中から、盗賊がお前を狙っている。魔物を倒しても、鎧の解除はするな」


「はぁぁぁぁぁぁっ!」

 ゴキッ!

 気合い一発。

 狼の首を折ると死体を投げ捨てる。


「はぁはぁはぁ」

 戦闘勘はあるようで、返事もしなければ疲れた演技もしている。

 片膝をついて、今にも倒れそうだ。


 何で都で役者にならなかったの、この娘?


 レイラから感じる気も魔力も、戦闘開始前から全く減っていない。

 本人がタフなのか、魂魄武装の能力か。


 森の奥から盗賊が出てくるのを感じてから、応援は止めていた。

 木々の上に隠れた俺に気付かず、盗賊達はレイラを取り囲む。


 もちろん鎖で手足を拘束して、口にも鎖を噛ました。

 ジャラララララララララ。

 何の音だ!うわっ!ぐべっ!げふっ!

 こんな感じで直ぐに終わった。


 木より高く鎖を浮かべて、盗賊を纏めて運ぶ。

「レイラ、奴等のアジトに襲撃をかける。鎧を解除しろ、静かに接近する」

「はい」


 レイラの鎧解除に合わせて、俺も狼に変身する。

 性的な意味じゃないよ?

 吸血鬼の変身能力だよ?


 レイラは溢れ出しそうになる声を押さえつけ、バックステップで俺から距離を取った。

「俺だ、リオだ。さっさと背中に乗れ。乗ったら、首の後ろの毛を掴め。走るぞ」


「あっ、はい」

 おっかなびっくり近付いてくるレイラの後ろに回り。足の間に頭を突っ込み持ち上げる。


 馬ほどではないが、レイラが片付けた魔物の狼よりかなり大きい狼の俺。

「うわぁ、ふわふわぁ」


「早くしろ」

「はっ、はい。捕まりました」

 隠密行動なので走る前の遠吠えはしない。


「それにしても。リオ君って本当に、何でもありですね。まさか、フワフワモコモコの狼に変身するなんて」


 それより、お前の胆力のが凄えよ。

 こんなサイズの巨狼が急に目の前に居たら、普通ビビるだろう。

 いくら中身が俺だと言っても、本能的な恐怖はそう簡単には拭えない。


 それをこいつは、毛皮のモフモフに負けて…



 盗賊の残り香を頼りに、森の中をひた走る。

 人間のまま猟師の追跡能力でアジトを探すより何倍も速い。


 しかし走りにくい。

 背中のモフラーが騎乗せずに、抱きついているから動きが阻害されている。


 不潔な男臭が強くなってきたので停止。

 レイラを降ろして人間に戻る。

 いや、だから。人間に戻るんだから、は・な・れ・ろ!


 この先にアジトがある、静かに待機していてくれ。偵察してくる。

 コクリと頷くレイラを残し、罠に注意しなから進む。


 右に左にと往復し罠を確認する。

 周囲の森に罠はなく、洞窟の入口に見張りもいない。


 コウモリに変身する。

 コウモリに変身すると1匹じゃなくて、20を超える群体になる。

 これが不思議な感覚で、全てが俺で同時に複数存在している気分になる。


 表層意識では同じ人格が個別の体に備わっているが、離れていても俺同士で思考会話が出来る。


 洞窟に突入すると分散して内部を調べる。

 自然の洞窟のようで、奥まで来てようやく人の手が入っている。


 下っ端用の大部屋。

 幹部用の個室。

 何でも入れておく倉庫。

 そして女性ばかりが閉じ込められた牢屋…


 1体の俺が牢屋の鍵束を奪い、洞窟の外へ出る。

 迷いコウモリの群れと思われたのか、誰も追ってこない。

 レイラの所まで戻ると、集合して人間に戻った。



「これが内部の構造と状況だ。レイラは鍵を持って牢へ。俺は先行して牢までの道を切り開き、その後は入口を守る」

「わかりました」


「俺は囮でもあるから、1番静かな移動方法で頼む」

「はい」


 再び狼に変身して走る。

 洞窟の入口から中に向けて全力で吠えた。

「ゴァァァァァ!」


 不意に現れた魔物を殺しに出てくる盗賊達を、爪と魔弾を使い戦闘不能にしていく。

 全員が四肢を傷付けられ、痛みに叫びながら地面に横たわっている。

 まだ殺すつもりはない。


 幹部が出てきたが所詮は盗賊。

 自身があるのだろう、1人で来たので四肢に向けた魔閃4発で沈んだ。


 牢の中以外に近くには反応がないので、牢の入口でレイラを待つ。

 念の為ファイスを手斧サイズにして、警戒を続ける。

 地面を無音で滑る全身鎧を、牢のある穴に入れる。


 背後から歓声と泣き声が聞こえたきた。




 レイラに倉庫の中身を回収させて、呼び寄せた鎖で追加の盗賊も拘束させる

 洞窟の前の空間へ捕われていた女性達に来てもらう。

 レイラに盗賊の倉庫の中身を出させる。


「皆さん。ここには武器があり、盗賊が居ます。復讐するなら、自由にしてください。」

「リオ君!」

 憤りの表情を浮かべ俺を非難するレイラ。


「俺達は部外者だ、口を出せねぇよ」

 同じ経験をした者同士でしか、分かりあえない気持ちもある。


 その晩盗賊は、自分が弄んだ者達に長い時間をかけて殺された。

 彼女達の希望で盗賊の頭は牢に入れて鍵を。

 体は森の遠くへと捨ててきた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る