第12話 盾の仕事

 少し離れて俺達は対峙する。


 レイラは左手で勢いよくマントを外すが、手にしていたはずのマントがいつの間にか消えている。

 レイラはそのままは左手を掲げ、叫んだ。


「装着!」


 胸から鈍色の帯が幾つも現れ、手を、足を、体を、全身を覆っていく。

 そして陽炎が本物になるように、大盾がレイラの前に姿を現した。


 大盾は縦と下に長い五角形をしている。

 一切の装飾がないが、代わりに大きく、分厚く、重い。


 鎧も実用性のみを追求し、病的なまでに持ち主を守ろうとする意思が感じられる。

 本来は発生する関節部の隙間が金属製の布で塞がれているのだ。

 そしてかなりの重量があるのか、動いてもいないのに既に足下の地面が少し沈んでいる。


 軽く見ただけで、これだ。ただの重装甲の鎧ってだけじゃないだろう。

 魂魄武装に関する情報がないから、判断が出来んな…


「出よ!我が魂、ファイス!」

 タクト達に見せた時より短縮して、いきなり手にした状態で出現させる。


 戦士が戦う意思を持って対峙したなら、言葉は不要。

 ただ敵を討つのみ!


 今回は両者が相手の実力を測るための模擬戦なので、最初から飛ばさずに徐々にギアを上げていく。


 レイラが見た目に似合わない速さで走ってくる。

 やっぱ魂魄武装はファイスと同じで重量があっても、持ち主は感じないか凄く軽いのだろうな。


 今回ファイスは、斧槍鎌からは刃と突起を丸め、殺傷能力を極力落とすようにしている。


 レイラの突進に合わせ、接続したままの斧で地面をフルスイングして削り飛ばし、煙幕にする。

 すかさずその場から飛び退き、レイラの突進を回避。逆に兜に飛び蹴りをかます。

 重い。まるで巨石を踏みつけた気分だ。


 だったら、魔力強化だ!

 頭を振っただけで、空中にふっ飛ばされた。

 なんつう首の力だよ。


 生み出した魔力球を足場に跳躍。レイラの大盾目掛け、魔力強化を全力にして斧でぶん殴る。


「おぅーらっ!」

 ゴゥィーン。

 腹に響く重低音を轟かせた大盾に、再度弾き飛ばされた。


 闘気強化の使用は、まだ先に回す。


 力の次は俊敏性と総合的な速さだ。

 魔力強化を維持したまま、レイラの周囲を走り回る。


 縦横無尽に姿が分かれるような速さは無理だが。

 時速30キロを超える程度の速さを維持して、レイラの反応を探る。


 レイラは左手の大盾を右手で持つと、大きく後ろに回して…投げてきやがった!


「シールドブーメラン!」


 技名、叫ぶのかよ!?

 飛んでくる大盾の下を潜って、レイラの横をすり抜けて大盾の反対側まで走る。


 おそらくレイラは大盾を消して、もう1度出現させるのがベストな行動だ。

 技名がハッタリで投げた先で落下しようと、本当にブーメランのように大盾が戻ってこようと。

 選択肢は然程多くない。


 勝つんじゃない、相手の実力を引き出すんだと自分に言い聞かせる。

 どうにも癖で、勝ち筋を探してしまう。

 レイラが反応するまで、今は待つ。


 ガッチョンガッチョンガッチョンガッチョン。

 ガッチョンガッチョンガッチョンガッチョン。


「すみません、お待たせしました」

 レイラは投げた大盾が落下したので、走って取りに行き。また走って戻ってきた。


「アホかー!!」


 全力の霊力強化で鎧の土手っ腹に、ドロップキックを食らわせる。

 それでも10メートルも移動しないし、倒れるどころかバランスを崩すことも無い。


 なんつー鎧だよ、硬いし重いし。

 多分無手でなら、爆力パンチでギリギリ戦闘不能に出来るかどうか。


 まあ、邪道でなら数分で勝てるのだが。

 1鎖で縛る。

 2逆さに持ち上げる

 3旅魔法の水生を維持して、顔を覆う

 4窒息死する


 3を埋めるにしてもオッケーだ。


 しっかし何と言うか。真っ直ぐ名性格が出た魂魄武装だな。

「それで、どうですか?私の実力は?リオ君は、見込んだ通り合格ですよ」


「あー、言いにくいんだが。条件付きで、合格なんだわ。レイラは」

「ええええええええ!?何でですか!?私、そんなに弱くないですよ!?」

 ガッチョンガッチョンと詰め寄ってくるな、お前がコケたら潰れて死ぬから!


「俺の戦闘方法だと、敵が分散するよりも。全部、俺に向かって来る方が楽に倒せるんだよ」

「ええー、そんなぁ」

 女声の全身鎧が大袈裟なリアクションをしているので、とてもシュールだ。


「あのっ、それで。合格になる条件ってなんですか?」

 もう立ち直ったのか、姿勢を正して聞いてくるリビングメイル(女声)


「レイラ。お前、馬車馬になれ」




「はい?」











 レイラの精神が回復するのに多大な時間が流れた。

 既に夕方に入ったので、背嚢から街で買った保存食一式を出して調理開始。


 干し肉をスライスして鍋に入れて、中火でじっくり煮る。

 パンは細切れにして鍋に。

 少しトウモロコシ粉も入れる。

 切った干し果物を3割入れて待つ。

 味見をしつつ、塩や材料を投入して味を整える。


 味の調整で2人前になったので、レイラにも分けるか。




「つまり魔窟は俺が魔物を倒すから。レイラは大量の食料を背負って、両手に持って、肩にかけて、俺の後ろをついて来るだけだ」


 復活したレイラに中身が残り半分の鍋とスプーンを渡し、話しの続きをする。

 保存食のパンを食べるのに、そのままとか硬すぎて無理。

 スープに浸して食べるより、汁も垂れにくいしなとも説明しておく。


「それなら私、空間収納を使えますから。いっぱいになるまで入れたら、100日分くらいにはなりますよ。それにしてもリオ君は料理が上手ですね。私が作るとどうしても…」


 俺の料理の腕はそんなにあるわけじゃない。可もなく不可もなくといったところだ。


「そりゃいい、魔窟なんて昨日まで知らなかったんだ。予想より深かったら、最悪現地で魔物肉を焼くしかなかったしな。それと、レイラの料理が不味いのは、多分不器用なせいだと思うぞ?」


「はぅ!」




「ふう、料理ありがとうございます。まさか街の外で、こんなに美味しいものが食べられるなんて、思もってもいませんでした」

「へいへい」


 受け取った鍋とスプーンを水洗いして浄化。

 水気まで取れるので、そのまま背嚢にしまう。


「んでよ。さっきの戦闘で気になったんだが、シールドブーメランって叫ぶ必要ないよな?あとあの大盾、本当は手元に戻ってくるんじゃねーの?」


「えっと、私はチームの盾ですから。相手の注意を引くために、ああやって叫んでます。それと大盾ですが、確かに投げても戻ってきますが。咄嗟に魔物相手に投げて、実は戻ってくるんですよってバラした方が格好いいかなーって…」


 こいつ。魔物の注意を引くとか、後付の理由なんじゃねえのか?

 実は格好いいが行動原理な気がするんだが…


「チームの盾なら叫んでも仕方ないな」

「そうですよね。やっぱり、必要なんですよね」


 既に鎧は解除しているので、激しい動作をするとDかEの双丘が激しい地震に見舞われる。

 レイラの目を見て会話しているが、猟師の本能か動く物体を目で追いそうになるからやめて欲しい。


 エロトークは好きだけど、エロに興味はないんだよ。なんでかな?




「そういや魔窟について詳しく教えてくれねえ?」

「はい、いいですよ」



 レイラの長い話しを纏めると。

 日本産ゲームのダンジョン、そのまんまだった。


 前世のハルバード好きは際限なく。実物だけでなく、ゲームもハルバードでプレイしていたのだろう。

 なので多少RPGなる知識もあった。

 それかハルバード好きになる前に、プレイしていたのかもしれない。


 魔窟とは。

 何故か魔物が湧き出し続ける。

 中の死体はいつの間にか消えているので、魔窟が吸収しているのだろう。

 死体と一緒に吸収された武具が魔窟の魔力に染まり、魔法武具になって落ちている事があるらしい。

 代わりに宝箱はない、等々。


 うん、ダンジョンだ。

 ダンジョンってさ生き物なのかね?

 それとも現象?


 それと聞く限り北の魔窟は下に下りるタイプなので、攻略法は既に考えてある。



「なるほど、助かった。それにしても、そろそろ寝よう」

「どういたしまして。そうですね、では交代で見張りをしま」


 ジャラララララララララ。

 鎖を射出して、1辺10メートルの立方体を作る。

「こいつは寝ても解除されないから、中で寝るぞ」


 固まって動かないレイラの背を押して、鎖の箱に入る。

 床も鎖なので固いが、安全第一なので文句はない。

 腕を枕にマントに包まって寝る。


 固まったままの小柄美少女は、自由にさせておいた。

 再起動したら、勝手に寝るだろう。




「ええええええええええ!」


 1度だけ、チームの盾が仕事をしていた。

 うるさかった。

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