第11話 予防線

 子供が万屋ギルドに入ると、超高確率で絡まれるらしいが。

 粗暴な外見に対して、誰もが良識を持っているのかもしれない。


(アイツ、あのガキ!人拐いの盗賊を斬殺したっていうガキの特徴、そのまんまじゃねえか。下手に関わったら、俺達が殺されちまう)


 何故か誰も俺から目を逸らすが…まあ、いいか。


 習字率が低い世界なので、万屋仕事も受付での斡旋が殆ど。


 一部の字が読める者。

 得意な仕事に必要な字だけ読める者。

 全く読めずに有料で読んでもらう者。

 本当に様々な人物が居る。


 なお、俺は村のギルドで覚えた。


 琴線に響く依頼がなかったので、明日には街を出る算段をつけながらギルドから出る。

 出入口で全身金属鎧の小柄な男と、ぶつかりそうになった。


 強化なしの足捌きで回避し、すれ違う。

「君、そこの少年!ちょっと待ってくれ」


 なんじゃら、ほい?

 俺を近所のボウズだと思って、使いっ走りにでも使うってのか?

 1度だけなら、そんな経験もいいか。


「店を予約してあるんだが、一緒に夕飯でもどうだい?」

 ふむ、これは…

 オシリアイになる危機?


 ファイスに自動防御させれば、薬で麻痺や昏睡させられても大丈夫か。

「どうかな?」

「ああ、いいぜ。そんな鎧の維持が出来るくらい金もあるみたいだしな」


「………ありがとう、少し待っていてくれ。ギルドに報告してくる」

「あいよ」


 鎧男がガッチョンガッチョン速足で受付に向い、何やら話している。

 入口横の壁にもたれながら、ギルド内部を観察する。

 精霊村支部と同じで受付に待合席、食事処とテーブル群。


 他所の食事処で飲んで暴れられるとギルドの評判が落ちるので、中でも酒を出すようになったらしい。

 だがこの街の万屋達はマトモなのだろう。みな静かに酒を酌み交わしている。


 受付を挟んで食事処の反対には、壁に貼り付けられたパピルスが。

 文字が読める者向けの、説明不要な仕事が書かれている。


 ガッチョンガッチョン。

 おっと、鎧男が来たな。

「少年、待たせた。さあ、行こうか」

「あいよ」


 ガッチョンガッチョンテクテクテク。

 ガッチョンガッチョンテクテクテク。


 裏通りへ入るでもなく、人の多い表通りを歩く騒音。

 こいつの主な仕事は旅の護衛かな?


 鎧男が入ったのは予想以上に豪華な、それでいて落ち着いた雰囲気の店だった。

「僕はここの常連でね、味を気に入って通ってるんだ」


「いらっしゃいませ。ようこそ、お起し下さいました」

 落ち着いた黒服に身を包んだ初老の人物が、全身鎧の危険に見える男を平然と案内する。


 普通、町中なら兜取らない?


 心の中の疑問は誰にも拾われずに、どこかへ消えていった。

 拾われたら、それはそれで問題だが。


 推定セバスチャンに個室に案内された。

「僕はこの鎧だから、奥まで行くのは手間なんだ。君が奥でいいかな?」


 いよいよもって、危ないかもしれない。

 ただし性的な意味で。


「タダメシなんだ、従いますよってな」




 食事は何事もなく進み、毒や薬が混入された感じもなく終わった。

 ただひとつ、誤算があったとすれば。


「やっぱりここの料理は美味しいですね」

 兜を外したら、鎧男が鎧女だったって事だ。


 年の頃は16・7で金のセミロングで、目は青い。

 目がパッチリとしていて、活発な印象を受ける。

 顔のイメージに対して物腰は穏やかで、話し方も丁寧。


 身長は150半ばで、鎧の鉄靴の分を差し引いても俺より20センチ以上高い。

 そうさ、俺はどチビなんだよ…

 チクショーメー!


「アンタがどういった目的で俺を誘ったのか、凡その見当はついている」

「っ!流石ですね。あれだけの身のこなしを、出来るだけはあります」

 鎧女の視線が鋭く俺を捉える。


「だが残念だったな。俺は確かに童貞だが、まだ精通してないんだよ。だからアンタの期待に」

「ちょっ、ちょっと待ってください。一体何の話しですか!」

 何やら急に、慌てふためきだした鎧女。


「何って、夜間の異性格闘技戦?」

「違います。私はそんな事の為に、貴方を食事に誘ったのではありません」

 テーブルに乗り出さんばかりに、俺の間違いを訂正する。


「そうか、勘違いだったか。正確な予防線を張ったと思ったんだがな」

「太陽は北か南から登るってくらい、外してますよ。その予防線の場所」


 西ですらなかったのか…


「それで私が貴方を誘ったのは、一緒に北の魔窟攻略をして欲しいからです」

「続きを」


「はい。ここ2年近くで北の魔窟が活性化していると、近隣の万屋や商人が話しをしています。知っての通り魔窟の活性化は、中の魔物が強化され。討伐が遅れると魔物が溢れ出てきます。防ぐためには長期間中の魔物を討伐し続けるか、最深部に居る主を倒す必要があると言われています。ギルドですれ違った貴方は、何気ないように動いて簡単に私を回避しました。足捌きだけであれほどならば、戦闘能力はどれほどなのか想像も尽きません。ですがいきなり組んで魔窟に向かって欲しいとは言いません。まずは近場の魔物を討伐して、互いの実力を確認してから。北の魔窟に向かって頂けないかと思います」


 つまり。

 私、足フェチだから。

 どこかで、魔物を狩ってから。

 北の魔窟でデートしませんか?か。


「いや、直接魔窟に向かおう。どこか途中で、出る魔物を狩ればいいだろうし」

「わかりました。では明日、ギルドで待ち合わせをして出発しましょう」


「わかった。俺はこの後、保存食等を買いに行く」

「私も宿に戻ってから、買い物に出ます」

 鎧女が料金を払って店の前で別れる。


 この街は村と違い保存食の質も高く、値段に見合う味だった。

 思わず背嚢を追加で買って、大量の保存食を買ってしまった。


 村で買った保存食は、魔物を誘き寄せるエサとして使おうと思う。

 スライムかゴブリンくらいしか、集まらないか?




 翌日。待ち合わせの場所は決めても、時間は決めてなかったなと朝食後直ぐにギルドに来た。

 昨日互いに名も名乗らなかったので、相手の容姿しか知らない。

 自分でも、よくそんな相手と組む気になったなと思うが。


「少年、お待たせしました。」

 昨日の鎧女が鎧姿ではなく、普段着にマントを羽織っただけで来たので驚いた。

 武器も防具も荷物もなし。


 ふーーーむ。疑問は尽きないが、考えるだけ無駄か。

「んじゃ、行くべ」

 ギルドを出て東門から北へ。


「自己紹介がまだでしたね。私はレイラ、戦闘万屋で3等級。昨日の鎧と大盾で戦います」

 疑問は尽きな…あっ、魂魄武装か?


「俺はリオ。戦闘万屋10等級で、ハルバードと無手格闘。村では猟師もしていたし、独自の魔法も使える」


「なるほど、その年で魂魄武装ですか」

「そっちは違うのか?」

「いえ、私もです」


 昼を過ぎてまだ歩き、そろそろ2時くらいか。

「街からかなり離れたし、暗くならないうちにやろうか」

「わかりました、戦いましょう」

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