第10話 涙
村の外の滅多に人が通らなかったらしい道も、ここ数年で往来が増え。しっかり踏み固められ轍も出来ている。
見通しのよい平野を、急ぐ事なくスタスタ歩く。
普通に歩くより僅かに早足で長距離を歩き。魔物の森より平穏な道で、体が鈍らないように気を付ける。
更に3力をファイスに貯めて体からなくし、疲労困憊に近い状態にして歩く。
体が重い。
速度がガクンと落ちた。
時々狼に変身して、視力の外の反応を調べる。
音よーし、臭いよーし。
風下の臭いは不明だが、そこまで気にしてない。
そもそも安全確認ごっこだから。
ポッポー
夕方になったので夜営。
鍋に魔法で水を入れて、火種魔法の出力を上げて継続して使い続ける。
鎌で細切れにしたパンと干し肉を、水から湯がいて完成。
少し冷まして、実食!
「うっえ!塩っ辛いし、パンまっず!」
鼻を摘んで喉に流し込み、鍋の残りも水でさらって飲み込む。
鍋を浄化してから、干し果物をパクパク。
魔道具収納という内部が何倍もの空間がある、魔道具の袋や鞄がある。
それの魔法版の空間収納と、容量無限で内部維持効果のある勇者専用魔法のアイテムボックス。
魔道具収納と空間収納には内部維持機能がないので、結局のところ夜営では保存食しか食べられない。
初日から暗澹たる気分になり、鎖の箱に入ってマントに包まって寝た。
昨夜は旅の初日の夜で興奮して中々寝付けなかった。
とかなら、良かったんだが。
これからのメシマズ旅行の打開策を考えていて、夜明け前まで寝られなかった。
前世の知識も95%がハルバード関連なので、こんな時は全く役に立たない。
知識は力、知恵は武器。
おジジに猟師の訓練受けてて良かったぜ。
前世で頼れるのはファイスだけ!
現世の俺が頑張るしかない!!
鍋に鎌で粉末にしたパンと干し肉と干し果物を入れて、粉薬の様に何回かに分けて飲み込む。
良薬不味い!
そう思って飲まなきゃ、やってられねぇよ。
メシマズでストレスが溜まるので、上空へ気功波をぶっ放しながら走る。
体力減ったらストレスも減るからな。
無色無音の気功波が雲にまで到達して、雲を散らしていく。
今日は雲アートでもするか!
何かもう、やってらんねー!
変なテンションで3力を放ち、雲を整形していく。
はっ!無意識の内にステーキの形にしちまったじゃないか!
チクショーメー!
説明しよう。
チクショーメー!とは。タクトが広げた日本の、勇者の母国の悔しがり方なのだそうだ。
いかんな。精神の均衡が崩れてきた。
何も考えずに歩こう。
「ちっ、オスガキかぶぉ!」
平原から林に入って少しすると、何人かが潜んでいたので出てくるまで待ってみた。
人拐いや盗賊と言った野盗の類だったので、ダッシュパンチで黙らせた。
「このガッ!」
降り下ろされた剣を避けながら、踏み込んで蹴り上げ。
タクト相手にすら使わなかった秘技、息子潰し。
貴様の息子は天に召された。
ガキ相手に数秒で2人のされても、考えなしに向かってくるバカ数人。
この程度じゃ訓練にならないので、鎖を射出して縛る。
1列に縛った野盗1人に噛ませていた鎖を外し、喚く野盗に質問する。
「死ぬかアジトに案内するか、選べ」
「へっ誰が」
ゴトン。
大鎌モードのファイスで野盗の首を落とすと、首のなくなった死体を釣り上げて、次の野盗に血をかける。
滝のように降り注ぐ血に、大の大人が恐怖で震えている。
「案内するのに2人も要らない」
血まみれになった2番目の男に、同じ質問をする。
「死ぬか、案内か」
「案内する。案内するから、殺さないでくれ!」
ゴトン。
次の男も同じ様に首無し死体になった。
「殺さないでくれ。過去にそう言われ、お前達が素直に逃がす事なんてなかっただろう?」
3人目も血塗れにして問う。
「案内します。案内させて頂きます!」
殺した2人の死体を重ねて深く埋める。
穴は魔法を強力にして掘った。
鎖を噛まされ、首と胴と手首を鎖で巻かれた男達。彼等は死にたくない一心で、必死で足を動かし続ける。
林の奥へ2時間ほど歩き、大岩の陰にいくつかのテントが張ってあった。
全員で狩りに来ていたのか、テントには誰も残っていなかった。
「お前達だけで全員か?」
必死に頷く男達。
男達を木に縛り付けて、辺りを探索する。
テントから離れた位置に大穴が掘られており、中には多数の人骨、腐りかけた遺体、まだ新しい女性の遺体があった。
俺はテントに戻るとファイスを取り出し、男達の首を刈り…取る直前で自制した。自制出来た。
鎖はそのまま男達の拘束に使い、テントの布を回収して大穴まで戻る。
1番上のまだ女性だと判る遺体を、テントの布で巻いて抱き上げる。
残りのテントの布で過去に奪われた財貨を纏めて、口を縛り背中に襷がけにする。
鎖を浮かせず引っ張って、全力で道まで戻る。
そしてそのまま道の先へ走り続けた。
こんな無残な遺体を見たのは初めてだった。
ずっと涙が止まらなかった。
街に着いてからの事は覚えていない。
野盗の男が兵士に何か言ったので、怒りのあまり斬殺した記憶は朧気に残っている。
俺が運んだ女性の遺体は、どこか名家の娘さんで。貴族の元へ働きに出し、行方不明になっていた人で間違いないそうだ。
各所から払われた謝礼金等は全て薪にして、教会付の孤児院に置いてきた。
気分が悪い、頭が働かない。
宿を探して早く寝よう。
もう4日も寝ていない。
2日宿で休んで精神もマシになったので、万屋ギルドに向う。
世界を見てまわるために旅に出たんだ。
いつまでも、へこんでいれない。
楽しい事があれば、気分も晴れるだろう。
宿で聞いた道を辿り、ギルドのドアを押し開いた。
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