第5話 勇者(笑)
俺が自分探しの検証と考察をしている間にも時間は過ぎていく。
10歳になった。
最近は戦闘能力ではなく、色々な技術を鍛えている。
猟師のオジジに狩りを教わっているのだ。
見方、考え方、追跡、罠と、覚える事が沢山ある。
今は剣鉈1本だけを持って、魔物の森とは違う森に来ている
オジジによる最終試験で、普通の猟師としてイノシシを狩ってこいとのこと。
森に入り周囲を観察する。
折れた枝。
途中から不自然に曲がった枝。
食われた葉。
落ちている毛やフン。
薄っすらと踏まれた地面。
他にも色々と観察しながら、樹上にも注意して森を進む。
ある日。森の中。熊獣人の超絶美女に。出会いたい。
確か地球にはそんな歌があったはずだな。
落ちている木の実を集めつつ、狩りに使える枝や石を拾い集める。
集まったらイノシシの生活圏…縄張りに落とし穴を掘る。
剣鉈で太い枝の後端を削り、スコップにして穴を掘る。
埋まっている石の周りは、角の鋭い石に持ち替えて土を掘る。
そうしないと枝スコップが潰れてしまう。
大柄なイノシシがギリギリ落ちるサイズの穴を掘ったら、集めた太い枝の先端を削り杭にする。
杭を穴の底に刺して、少しでもイノシシが負傷する確率を上げる。
更に落ちたイノシシに木の上から、何本も木槍を投げで背中に傷を負わせる。
硬い毛と筋肉で言うほど楽に刺さらないが、グッサリ刺されば後は弱るのを待つだけなので、安全に狩れるはずだ。
落とし穴に蓋をして、集めた木の実をばらまく。
落とし穴の上の木に登り、蔓でハンモックを作り長期戦の構えだ。
食料は道中集めた木の実や果実。
水は
イノシシを待つ間に旅魔法の事を思い出した。
オジジについて猟師の習いをしていると、当然現地に泊まる事もあった。
確か、あの時に教わったんだったな。
洗浄…水が貴重なので使った鍋を洗うのに必要。
種火…魔力マッチ。
水生…少し水が生み出される。
高名な誰だったかが旅をしながら広めた魔法だから、敬意を込めて旅魔法と呼ばれるようになったらしい。
誰だったかは忘れた。
そして今では日常生活でもそこそこ使われる様になってきている。
オジジは全部使えたので、当然教えられている。
数日樹上に待機して、イノシシを狩った。
予想より、かなり早くイノシシが来た。
予定通りに進んだので、苦戦はしなかった。
予定以上に大型のイノシシで、穴に落ちて目から脳まで杭が到達したので瞬殺だった。
流石にこれは魔力強化しても重く、帰るまでに肉が腐る。
内蔵を捨てたら、鎖を射出して吊るし帰った。
肉を守るために鎖は使ったが、それ以外は全て自力で行ったので、オジジの評価は合格だった。
獲物の持ち運びは、大人になったら自然と可能になるからと免除された。
後は場数を熟し経験を積むだけだ。
イノシシは傷もなく後処理も完璧なので味もいいだろうと、少量ずつだが村人全員に配った。
回復に3日休んでから、魔物の森の奥で狩りをする事が多くなった。
12の成人に向け金を貯める為だ。
俺はこの世界を見て回りたい。
どんな出会いと別れがあるのだろう。
出会いとはカレーに思えて、カレーも食べてみたくなった。
日本人の主食の一品だったのだろう?
見て触れて食べて。
新たな土地とまだ見ぬ文化に思いを馳せ。
価値が下落しない程度に今日も魔物を狩る。
10歳も残り半分を切った頃。
俺は万屋ギルドで、中堅の戦闘万屋の指導をしている。
無論彼等の技術は巧みで連携も阿吽の呼吸なので、指導するのは各人の持つ能力の使い方相談という面が強い。
「俺ぁどうしても大物になりたくて戦闘万屋になったが、縄術しか持ってなくてよ。それでも剣士として工夫してここまで来たが、そろそろ限界を感じてな」
そんな相談だった。
彼が今縄術で出来る事を聞いて思案する。
「森限定でなら、直にでも効果の出る方法は思いついた」
「何っ!本当か!?いくらでも払う、教えてくれ!!」
「料金は一律だし、経費はそっち持ちだよ。受付で説明されなかったか?」
「あっ。いや、されたよ。すまん、興奮しちまった」
「まずお試しだ、裏に行くぞ」
指導対象の男とその仲間を引き連れ、ギルド裏の解体場横の訓練場に向う。
貸出用の棍を手に取り、鎖を射出する。
両親以外には鎖が俺の武器だと認識されているので、ファイスの柄は出さない。
秘密は武器だからな!
「あんたの縄はある程度自由に動かせるってんで、俺の鎖で実演してみせる」
ギルドの屋根と近くの木に鎖を巻き付けて、その中央に棍を乗せる。
棍の後端に鎖を巻き付けて準備完了。
後端の鎖を引き絞り棍から外す。
要は環境を利用した縄と槍の弓矢である。
放たれた棍はそこそこの威力で地面にめり込んでいる。
今回はデモンストレーションに前方の鎖に引っ張らさせたが、細かな工夫は本人がすべきだろう。
「どうだ?魔物を見て直ぐに発射出来る様になれば、かなりの戦力になる」
「こっ、こりゃすげぇ!これなら今までの何倍も。しかも安全に稼げる!」
こんな感じで格安でアイデアを売り、戦闘万屋の生存と稼ぎと、トータルでギルドに貢献していった。
もちろん俺を疎ましく思う奴も居たが、実力を見せ言葉を交わし、酒をご馳走して悩みを相談して仲良くなっていった。
戦闘能力が向上し中堅から一流になった戦闘万屋も出て来るようになると、万屋ギルドでは悩みを共有して解決に向けて考える事が当たり前になった。
手札を隠すより、強くなりたいという気持ちが強くなる。
それに自分が強くなれば仲間も助かる。
何より。
「情報を知られて対策されて勝てるくらい強くなれたら、最高に格好いいんじゃないか?」
と言ったら乗ってきた。
基本的に戦闘万屋にはバ…熱血漢が多いのだ。
11歳夏
村に勇者が来た。
自称勇者様なのか、勇者(笑)なのは不明だが。
戦闘能力が高く傲慢で、傍若無人な振る舞いを初日に1時間弱だけした。
その日狩りを終えてギルドに売りに行くと、軽装の剣士が知り合いの戦闘万屋を踏みつけご高説宣っていたので、そこそこ扱える様になっている爆力で肉体強化をして、心が折れるまで殴る蹴るして痛めつけた。
勇者(笑)は回復魔法が使え、自分で回復するので死なず、手間要らずだった。
それから勇者(笑)を厳しく指導したらいつの間にか勇者(笑)は舎弟になっていた。
夜は鎖で閉じ込めて、逃げられなくしていた。
「リオさん、おはようございます!」
俺が朝ギルドに入ると、余分な事は言わずに最敬礼する勇者。
(笑)は既に取れている。
この勇者。冬の前には俺より格段に強くなっているのに、俺を敬う事をやめない。
彼のハーレムメンバーも最初は、勇者(笑)を9割殺しにして心を折った俺を、親の仇の様に睨んでいたが。勇者(笑)が勇者になるにつれ兼も取れて、今では爽やかな笑顔を浮かべる美少女達になっている。
「おはようございます!」
勇者に続き、勇者ハーレムも俺に最敬礼する。
「おう、おはよう。今日も俺は後ろで見てるから、自由にやるといい」
『はい!』
勇者ハーレムも既に俺とどっこいどっこいの実力になり、そろそろ魔力強化して戦わないと勝てないだろう。
勇者はまだ闘気強化で魔弾とか使えば、ギリギリ勝てるかな?
短期決戦限定でだが。
そんな超強力チームの後ろで、彼等の精神安定剤としてどっしり構えているだけの簡単なお仕事です。
勇者タクトは日本人らしく、この世界に転移してきたらしい。
男色をこじらせたストーカー男に、浮気者と言われナイフで滅多刺しにされて死んだとか。
タクトはハーレム作るくらいのノーマルなので、ストーカー男の勘違い恋慕なのだろうが。
知識だけではわからないもんだな、日本の怖さって。
そして気が付けばこの世界来ていたらしいタクトは、自分に宿っていた強力な能力で瞬く間に成り上がりハーレムを形成。
纏った資金を集める為に、最近噂になっている魔物の森に近い精霊村に来た。
戦闘能力が高く誰も注意出来なかったので傲慢になっていたタクトは、万屋ギルド精霊村支部でも揉め事を起こして、俺に見つかり今に至る。
知識にある日本人よりも掘りの深い顔付きのタクトは、この世界でも非常にモテるのだろうな。
今まで集めたハーレムメンバーは30人を超え、村に永住すると真人間になった?戻った?後に宣言した。
万屋ギルドで万屋全員に個別に頭を下げ。
村人にも1軒1軒、挨拶に回っていた。
今では村でも1番魔物の森側に近い土地に2階建ての広い豪邸を建てて、日替わりで探索メンバーを変えて魔物の森で狩りをしている。
最初は煙たがられていたが、日本人特有の気質で礼節を重んじ気遣いも出来るので、次第に受け入れられていった。
タクトが来てからを回想しているとワイバーンが群れで20と少し、平原で襲ってきた。
俺は回避しているだけでタクトが指揮を取り、ハーレムメンバーと共に余分な傷を付ける事もなく、ほんの数分で殲滅している。
鎖を出してワイバーンを逆さに吊るす程度はサービスだ。
血抜きの間にタクト達は戦闘の自己評価をしている。
あれは良かった、ここはこう改善出来ないか等だ。
それが終わると俺に報告して、相談した内容の評価とアドバイスを求める。
感知能力の範囲と精度を上げれば、乱戦での背後の安全性が上がると助言。
「なるほど、ありがとうございます」
血抜きも終わって、タクトがアイテムボックスにワイバーンを収納。
次の狩りに行こうとするタクト達全員に聞こえるように。
「毎晩の乱戦を真っ暗闇か目隠しで行うと、感知能力が上がりやすいかもな」
タクト達はビクッと一瞬固まったが、平静を装いながら歩く。
「明るい部屋でさタクトだけが目隠しして、気配を頼りに相手を追いかけて捕まえるんだよ。捕まったらちょっと大人のお仕置きをするとか。逆に目隠ししたタクトが逃げて、捕まえた相手とだけ楽しむとか。捕まえた相手を誰か当てたり、指定した相手を捕まえさせたり。まあ工夫して、毎晩楽しい訓練をしてくれ」
タクト達は顔を真っ赤にして、全員手で顔を覆って歩みを止めていた。
「リオさんの発想力が凄いのは、見たり聞いたりして知っていますけど。私達には刺激が強すぎますから!」
やり過ぎて、タクトハーレムの1人に叱られた。
どうやらメンバーが多いだけで、愛し合い方としては単調なのか?それでも全員満足していたのかもしれない。
「単調でも一晩の人数上限があるから、何日か待たされる。まさか単調でも満足させられるほどの息子…なのか?」
「だからリオさん、そういう事は!」
「村の女衆に聞いてみろ。俺なんか足元にも及ばない、凄い話しが聞けるぞ」
俺の台詞に、タクトハーレムの何人かが唾を飲み込んだ。
「夜に可愛いタクトが見ないなら、是非お勧めだ」
「ちょっ、リオさん。何言ってるんですか!」
「タクト。男なら嫁さん全員を一生幸せにする為に、常に考え続けなければならない。1人1人を見て、何が好きか何を喜ぶか。日常の些細なサインは男だと気が付かないから、全員一緒ではなく、個別に一緒にいる時間を増やして。遠慮がちな嫁さんが居たら全力で愛して、遠慮はしないでくれと遠慮する必要はないとわからせてやれ」
「はいっ!」
何か心当たりでもあったのだろうが、晴れやかな顔をしている。
「頑張らなくていい、夫婦の時間を楽しめ」
「わかりました、リオさん」
冬も終わりそろそろ春だ。
旅立ちの日は近い。
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