第2話 ピカピカの1年目

 俺の名はまだ不明。

 つい最近生まれた赤ん坊で、まだ転生先の言語を覚えていないからだ。

 両親の言葉がわからないから、まだしばらくは名称不明のままだろう。


 驚いた事に、ここは地球じゃない世界だ。

 母親…母さんが魔法を使ったのだ!

 手から光を放射して範囲内の汚れを除去。

 布おむつは交換されたけど、お尻は拭かれなくてもスッキリした。


 魔法があるなら魔力があるよな。

 体内の魔力を感じられる様になる訓練が日課になった。


 昼寝から目覚めて、空腹でもおむつでもなかった日。

 体内に凄いエネルギーを感じた。

 これが魔力か!

 それからは魔力を扱う訓練が続いた。


 多分2歳になった。

 この世界の1年は600日ちょっとで、610日まではいかないくらいだろう。

 季節の巡りが1周するまで数えてみた。

 計測機器がないので凡そだ。


 毎日魔力を扱う訓練を続けていてわかった事がある。

 あの凄いエネルギーは魔力じゃなくて神力だった。


 両親に隠れて取り出したハルバードの神器、ファイスから同じエネルギーを感じたので多分神力だろう。

 前世の知識は、時間と共に徐々に殖えている。

 その知識がハルバードの名前や、神器という特殊な武器だと教えてくれる。


 今日からは母さんに魔法を見せてもらって、魔力を感じる練習に戻る。

 朝食の時にお願いしたら、許可してくれた。


 「おや、リオは魔法に興味があるのか。それなら猟師仲間に気が使える人がいるから、その人に教えて貰える様に頼んでみるよ」


 「うん、父さん。ありがとう」

 この日から神力の扱う訓練に、気と魔力を感じる練習が追加された。


 3歳になった。

 父さんの猟師仲間というか、1番のベテラン猟師に師事して気を感じとり。

 母さんの魔法を見たり受けたりして、魔力を感じる。


 そして寝る前は神力操作の練習。

 訓練と言うほど激しくないので、幼い間は練習で統一した。

 カッコつけたかったんだよ…


 そんな生活を1年も続けていると、気も魔力を少しずつ操作出来る様になってきた。


 母さんの掃除魔法は洗浄と言うらしい。

 神力を使うイメージで魔力で洗浄してみたら、何段階も強力な洗浄になった。

 洗浄では落ちない頑固な汚れも落ちた。


 差別化するのに、浄化と名付けた。

 日に何回も自分を浄化しているので、多分世界一清潔な子供だと思う。


 知識でしかないし入った事がない風呂より、速くて清潔になる。

 歯磨き、手洗い、シーツの洗濯も不要になった。

 両親も内緒で毎日浄化している。


 両親が仕事に出た後、家の中を洗浄するのが俺の仕事になった。

 一気に浄化せずに最弱で浄化して、こびりついた汚れを徐々に薄く。最後には消し去るつもりだ。


 清掃の後は気の練習。

 猟師のオジジは鏃に気を込めて、貫通力を上げているらしい。

 村の中で使うには危険なので、話しだけ聞かせてくれた。


 3つのエネルギーを使っていると、エネルギーの大元が違うものだと理解出来る。

 気は肉体。

 魔力は精神。

 神力は魂。

 それぞれの強さ?格?そういった何らかの基準があり、密接な関係性にあると思う。

 子供の経験則なので、そこまで当てにならないけど。


 気を鍛えるには気を操作して扱いに慣れるのと、体を鍛えて気の総量を増やすしかない…はず。

 家の周りを走りながら、気弾や気功波と言われる気の放出技術を練習する。


 カッコよく言わなければ、走りながら気のボールでジャグリングするイメージだ。

 3歳児なので直ぐにバテる。

 幼い体に無理はさせずに、魔力の練習に移る。


 白状すると魔力も神力もボール状に放出して、複雑にイメージした軌道通りに操るだけ。

 そう、気と同じ様に。

 知識はあっても3歳児だから、アイデアが浮かばなかったんだよ。


 夕方両親が帰る頃には家も少しキレイになり、俺はヘトヘトなのですっごく褒められる。

 頑張ってお掃除出来たね、偉いねって。

 ごめん母さん、ただの練習疲れなんだ…


 5歳になった。

 家は完全にキレイになり。毎日の掃除は、範囲を家全体にした浄化で一発。

 その後は気魔神の3つを、別々に同時に操る練習をする。

 ほどほどに疲れたら休憩。


 休憩が終わったらファイスを取り出す。

 元々大人用サイズで、子供の間は使えないかなと思っていた。

 ある日ファイスが小さければなーと思ったら、お手頃サイズに縮んでいた。


 それからは毎日ファイスを持って、突きの練習をしている。

 屋内なので振り回すと何か壊しそうで振れない。


 早く一人で村の外へと出たい。

 出られたら思いっきりファイスを振り回せるのに。


 夕食後は家族全員に浄化して、気魔神を同時操作する練習して就寝。

 かなり疲労するので、毎日熟睡出来ている。


 珍しく、夜明け前に目が覚めた。

 窓から見える陽光に、ファイスを輝かせたら美しいのではと思いファイスを取り出す。


 ぽろり…

 ファイスの先端部の、槍と斧とピックの代わりの鎌が外れて落ちた。


 のおおおおおおおお!


 村にはせいぜい小さな窯しかないのに、ファイスが壊れた。

 やばい!修理出来ない!


 とりあえず1度回収して…

 もう1度ファイスを出してみる。

 おっ、ちゃんとくっつ…

 ポロッ。

 なあ!


 また外れたけど、今度は槍とかが浮いてる!?

 先のなくなったファイスと、浮いてるパーツを交互に見比べる。

 とりあえずもっかい回収。


 んで出す。

 うん普通だ。


 外れろ、浮け。と念じてみる。

 今度はポロッではなくフワッといった感じで、先端パーツ3つが浮いた。


 うーん、どうなってんだろ。

 石突浮け!

 フワッ。

 浮いたよ。


 よし柄も浮け!

 カランカランカラン。

 …浮かないね。


 軽く投げた柄が床に落ちて、乾いた音をたてる。

 あっ…

 ドアに耳を当てて、部屋の外の音を聞く。

 ふぅ…父さんも母さんも、今の音で目を覚ますかと思ったけど。大丈夫だったみたいだ。


 ベッドに座って、浮いたパーツを観察する。

 これは浮くだけ?


 うーん…回れ!

 おおっ!


 4つのパーツが目の前を、公転軌道でグルグル回りだした。

 そのまましばらくパーツを、思い通りに空中を移動させて遊んでいた。


 コンコン。

 「リオ、朝食よー。起きてるー?」

 「あっ、はーい。母さん、今行くよ」


 朝食に呼びに来た母さんに返事をしつつ、ファイスを回収する。

 その場で瞬間的に消えるファイス。

 自己紹介が遅れたな俺はリオだ。


 急いで着替えて、台所と繋がった食堂を兼用している居間に向う。

 「おはよう」

 「おはよう」

 「おはよう」


 俺の挨拶に答える両親の声を聞きながら、椅子を引いてよじ登る。

 最近は台を使わなくても、自分で椅子に座れる様になった。

 さあ朝食の後は練習だ。

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