どうみてもハルバードだろう
天神 運徳
第1話 鍛冶神と悪ノリ
俺の名は…既に死んだ身だ、名前なんてどうでもいいか。
俺は生前、とてもハルバードが好きだった。
正確には今も好きだ。
わざわざ許可まで取って、ハルバードを所持。
毎日翌日に響かない範囲で、自主戦闘訓練もしていた。
槍や薙刀等の、長柄の動画を参考にしてな。
アパートの狭い庭でハルバードを振り回していると、無断で撮影されるのは日常的だった。
当然ハルバードは置いて、素手で捕獲して通報。
無断撮影や盗撮の現行犯として、連行してもらった。
インターネットに俺の動画がアップロードされると警察、弁護士、提供会社等の全てに連絡して投稿者を告訴した。
そんな苛烈な俺の行為はマスメディアに取り上げられた。
住んでいる都市に本名年齢と、投稿された動画までテレビで流れた。
報道の自由より個人情報保護が勝り、放送会社から多額の賠償金を得た。
その事も悪意ある報道で全国に流されたので、また訴えて勝訴した。
流石に日本に要られなくなり、ハルバードの所持が認められる某国に帰化前提で移住。
物価が安い広大な土地を買い、終の住処とした。
次第にハルバードを振るうだけでは満足出来なくなり、高名な鍛冶師を訪問。
ハルバード愛を熱く語り、振るうだけでは満足出来なくなった。
自分で最高のハルバードを作ってみたい。
そう胸のうちを打ち上げた。
彼はそれほどの熱意があるのならと、見習い期間も設けてくれた。
見習いを含め30年経って、ようやく1人前と彼の弟子を名乗ってよいと言われた。
ハルバード限定でだったが。
鍛冶師が30年で1人前なら早いのだが。
俺はハルバード限定だったが、凡才より少し才能が少なかった。なのでこれだけの年数が必要だった。
それから俺は自宅に鍛冶場を作り、最高のハルバードを目指しハンマーを振り続けた。
合間に鍛錬として、ハルバードも振っていた。
あれから何年経ったのだろうか、そろそろ資金が不足し始めた。
俺は自作した数多のハルバードを、インターネットで販売し始めた。
ハルバード限定でだが、あの鍛冶師が1人前と認めた弟子として認知された。
狭い世間だが。
ネット注文されたのは美術品、芸術品として飾れるハルバードだったので、俺のハルバード愛に不可能はないと1本1本丁寧に丁寧に作っていった。
俺の美術品ハルバードは高値で売れ、資金も潤沢になった。
なので武器ハルバードと美術品ハルバードの両方で高みを目指した。
ある日。武器として美しさも融合した、最高のハルバードを完成させた。
真っ先に師匠に見せに行った。
ハルバードだけならワシを超えたなと言われ、嬉しさのあまり号泣した。
押さえる事は出来なかった。
その日は師匠と酒を酌み交わし1泊させてもらい、翌日自宅に帰った。
その時俺は油断していた。
今までも大丈夫だったんだから今後も大丈夫と、危機管理を怠った。
いやそもそも、危険意識を持っていなかった。
日課のハルバードの戦闘訓練を、雷雲の下でしていたのだ。
当然俺は、雷に打たれて死んだ。
俺は初めて見る鍛冶場で、目の前の男に人生を語り終えた。
彼は自分を武具神であり鍛冶神だと言う。
こんな神々しい雰囲気を持つ鍛冶師は居ないと思うので、神なのだろう。
今は転生するか地獄へ行くかの結果が出るまでの待機時間で、鍛冶神は俺に興味を持ってわざわざ面会に来てくれたらしい。
彼は武具神で鍛冶神なので、当然ハルバードについて話しがあい。延々とハルバード談義をしていた。
次第に僕の考えた最高のハルバード、みたいな話しになり。互いに悪乗りして、アニメでも見ないような完成図が出来上がった。
いつの間にか2人で、図面と設定を書いていたんだよ。
冷静になった俺達は、今度は鍛冶神の話しを聞かせてもらった。
武具神として誕生した彼は、想像しただけで最高の武具を創造可能だった。
剣に槍に盾に鎧にと、オーソドックスな物から。蛇腹剣や中国武器のサイなんかの、マイナー武器も創造した。
そして思った。
人間が手で打つ様に自分も神の力を使わずに、神として創造した武具を超える品を作ってみようと。
夢中で鎚を振りどれだけの年数が経過したか。
気が付けば、武具神として創造した武具を超えた品を打ち上げた。
そして武具神は鍛冶神にもなった。
話しを聞き終わると、当然また鍛冶の話しになり。
いつの間にか俺の腕を見せる事になり。
気が付けば、鍛冶神と考えた最高のハルバードを2本完成させていた。
来世にも地獄にも持っていけないので、完成したハルバードは2本共鍛冶神に。
「君の進路が決まったよ、転生だ」
不意に鍛冶神が終わりを告げる。
「そうか」
やり遂げた高揚感も落ち着き、不思議な充実感に包まれながら鍛冶神に別れを告げた。
「いやまだだよ。転生は決まったけど、君にはもう少しここに居てもらわなくちゃいけないんだ」
死後の先を進路と言うのが今更ながらに不思議に思えてきたが、言葉の続きを待つ。
「今完成させたハルバードを1本、君が来世に持って行くんだ」
「転生した途端に、母の腹を貫いてしまうのでは?」
「魂に同化させるから平気だよ。取り出し可能で、手から離れても回収も収納も出来る」
おお、凄い便利!
「神器だから壊れないし、君は重さを感じ無い。それに君自身は傷付けない。危ないから、生まれるまでは取り出せない様にもしておくよ」
最高だと思ったら、更に上があったのか。
胸中を色々な思いが渦巻き、何も言えなくなる。
「そして僕の名前から一部を取って、君のハルバードの銘にしたよ」
「鍛冶神よ、感謝する」
「気にしないで、僕達心友じゃないか」
ああ…そうだな。
「このハルバードを来世に持って行くのに、ひとつ頼みがある」
「なんだい?」
「転生した当初は設定の第1段階、せいぜい第2段階までしか使えない様に、こいつの機能を封印。転生先では人格の1部や知識は残しても、記憶は全て消して欲しい。当然こいつの知識の大半も消してくれ」
手にしたハルバードを鍛冶神に見せながら頼む。
「それは何故だい?」
「愛用していたハルバードが急に強くなったら興奮するだろ。それにまだまだ先があるなら、ドキドキワクワクが止まらなくなる」
「いいねいいね!」
「そうすれば記憶のなくなった来世でも、どんどんハルバードが好きになるだろうしな」
「うんうん、いいよいいよ!細かい事は、僕が調整しておくから気にしないで」
「ありがとう。俺が死んだら、また呼んでくれ」
「うんそれじゃ転生させるよ、またね」
「ああ、またな」
そして俺は輪廻の中に戻り、来世へと旅立った。
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