第3話 射出実験

 ファイスのパーツが外れて浮いてから、かなりの日数が経った。

 それと柄からパーツを外す事を、射出又はパーツ射出と呼ぶ事にした。

 射出後は俺の意志で、空中を自由自在に動かせる。

 そしてある程度は自動で動く。


 あらからずっと、射出で何か出来るか出来ないかを検証してきた。

 今日はその最終検証を行う日だ。

 正確には昨夜既に指示?命令?をして、今朝結果が出ているはずだ。


 昨夜射出して、夜明け前に開拓予定の森の木を手前から10メートル奥へ。左右の端から端まで切り倒し切り株も抜いているはずだ。

 木が倒れる騒音で目を覚まさなかったから、失敗したかな。


 朝食後、村の男達が集まって森へ木を切りに行った。

 検証に成功していれば、夕方には噂くらいされるだろう。


 「大変だ!森から魔物が出てきたかもしれないぞー!」

 何っ魔物!

 村の畑は柵の外にある。

 今日は両親共に畑に行っているはずだ。


 いてもたってもいられず家から飛び出して、

そこに居た両親と鉢合わせする。


 へっ?


 「うん?どうしたんだいリオ。急に飛び出してきたりして」

 「魔物が出たって、それで父さんと母さんが心配で」


 「そうかそうか、リオは優しいね」

 「そうね。リオが優しい子に育ってくれて、私も嬉しいわ」


 父さんに抱き上げられて、何故か2人から褒められる。

 俺に似てない金髪美男子と、ふわふわサイドテール茶髪の美少女にチヤホヤされる。

 「いやっあのっそうじゃなくて、魔物は?」

 

 「魔物が出たかもしれない、だよ。今日の開拓当番がね、森の端から端まで木が切り倒されていて、魔物のしわざじゃないかって勝手に騒いじゃってね。今頃、村長達に叱られていると思うよ」


 「魔物じゃなくても不思議な事が起こっているでしょ。だから念の為、今日はお休みになったの」

 「ふーん、そうだったんだ」


 2人共ごめんなさい、犯人は俺でした。

 検証は成功していたが、お調子者のせいで騒ぎになってしまっている様だ。


 「だったら今日は、2人共家に居るの?」

 「そうだね、僕は1日薪割りしてるよ」

 「それじゃ私はお掃除ね。いつもはリオに任せっぱなしだし」


 「ねー母さん。だったら今日俺はどうすればいい?掃除は魔法を使うから、2人でやればそんなに時間かからないよ」

 「今日リオは、お休みにして遊んできてもいいわよ」


 「やったー!じゃあ行ってくるね」

 『いってらっしゃい』

 「いってきまーす」


 両親に送り出され通りを走り回り、誰にも見られない位置に来ると、ファイスをだして斜めに先端を地面に刺す。

 柄に跨って柄を伸ばす。


 ギューンって感じで柵の向うに出たらファイスを消して、直ぐに下に向けてファイスを出して伸ばす。

 ファイスが倒れるなか、先端に向けて斜めに滑り、着地直前でまたファイスを消す。

 ゴロゴロゴロ。

 ちょっと着地に失敗して転んでしまったが、これが俺の村からの外出方法だ。


 休日はこうやって村から抜け出して、森で果物をもぎ取って食べている。

 開拓村では子供も多少は労働して当たり前で、休日は家庭によって違うために滅多にあわない。

 必然的に1人で遊ぶ事が多くなり、猟師のオジジに貰った果物を狩りに、内緒で森に入っている。


 村の近くの森の魔物は村に危害を与えるからと、既に狩り尽くされているので安全に探索出来る。

 季節に合わせて、複数の種類の果物の木の場所をキープしているので、そこへ向う。


 ああ油断した、またしても油断していた。

 前世の知識にもあるのに、危険はないと油断した。


 前方約20メートルには魔物か動物かわからないけど、成獣サイズのイノシシがいる。

 そして前足をかいて突進の準備をしている。


 マズイマズイマズイマズイ!


 周囲に隠れる場所はなく、木の皮もツルツルしていて登れない。

 そもそも木に登る力も足りない。

 走っても大人でも追いつかれるのに、子供の俺では背中を晒すだけ!


 こうなったらアイツの突進をギリギリで回避して、後ろの木にぶつけてやる。

 「さあ来いイノシシ!」


 覚悟を決めるとイノシシに向って叫ぶ。

 叫びが合図になったのか、イノシシは猛烈な勢いで走ってきた。


 「今だっ!」


 あっ…


 子供の速さで早めに動いてギリギリ回避になる予定が、木の根に爪先を引っ掛けた。

 イノシシはもう目の前。


 死ぬ…


 咄嗟に腕を交差させて身を守った。


 あれっ?


 少し待っても、衝撃も何もない。

 振り返ると、イノシシは木にぶつかって気絶している。


 俺は怪我がないか体を確かめようと、下を見て。

 声なき叫びを上げた。


 体がない!


 いや感覚はあるし、何故かここだけモヤが発生している。

 なんだこれどうなってる!


 必死に腕を動かそうとするが、腕の感覚がない。

 どうなってる腕がない、体も感覚があるだけで何かおかしい!

 それに足もないの似視線の高さが変わってない!


 ダメだ混乱して思考がループしている。

 俺の体、元に戻れよ!


 あっ…

 元に戻った、俺の体だ。

 一体何かどうなってあんな事に…


 霧になれ!

 「うわっ!」


 霧になれと強く念じたら、体が一瞬で霧になった。

 体の操作が上手く出来ない。


 自分の意志で霧にもなれるし、また元にも戻った。

 疑問は尽きないが、先にあのイノシシにトドメをさして血抜きしないと。


 ファイスのピックの代わりにある鎌で、首の左右を切る。

 頭蓋骨陥没でもして脳が傷付いたのだろうか。

 かなり深く切ってしまったのに、痛みで目覚めない。


 都合がいいので気にせずに。

 あっ!


 血抜きしても、持って帰る方法がない。

 ロープか何かがあれば、斧の刃以外の部分に括りつけて浮かせれば、持って帰れるのに。


 ジャラララララ。

 急に金属の擦れる激しい音がしたと思ったら、石突が射出され柄と鎖で繋がっていた。


 射出後の柄は金属棒で穴はあいてないのに、下側から鎖がどんどん出てくる。

 石突に鎖でイノシシをグルグル巻にして、頭を下にして持ち上げさせる。


 鎖も浮いているので柄を消して、一部を円盤状にして座る。

 そのまま村を目指して、ゆっくり浮遊移動していった。


 イノシシ襲撃と体が霧になった事で、村から抜け出していたのをすっかり忘れてた。

 5歳でイノシシを狩った将来有望な子供として、村で喝采され。


 逆にいつもは優しい両親にしこたま怒られた。

 感情に任せて怒るのではなく。

 もしリオが死んだらと思うとと、心配させた事を怒られた。


 なので鎖で浮いてハルバードを投げたから危なくなかったと、必死に嘘についた。

 泣きそうな顔で叱る父さんを見ているのが辛かったから。


 母さんは俺が叱られ始めた頃から、部屋の角で泣いていた。

 鎖で作った球体に入り浮いて実演してみせると、ようやく2人は落ち着いてくれた。


 しかしリオが魂魄武装を使えるなんて、夢にも思わなかったよ。

 「何それ?」


 「自分の魂と言える形の武器を精神力で作り出す、戦士の奥義だよ」

 「ふーん、そうなんだ」


 「お父さん。私はイノシシを切り分けて、ご近所に配ってきますね。

 「ああ、配るのは僕が行くよ」

 「はい」


 イノシシはうちでは食べきれないので、お裾分けするらしい。

 家族全員がフードファイターでもないと、食べ切るのは無理か。

 その日は久しぶりに両親の部屋で、2人に挟まれて眠った。


 ファイスが魂魄武装じゃないからアッサリ流したけど、戦士の奥義をこんな子供が使えるって知られたら…

 そこまで考えて睡魔に負けた。

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