第17話 名付け
風呂上がりのレイラはタンクトップに短パンという、非常にラフな格好だった。
陰りがちだった表情はスッキリして、憑き物が落ちたかのようだ。
濡れた金髪は布で頭部に巻かれ、タンクトップは少し肌に貼り付いている。
実数地も比率も俺より長い足は、守られる物がなく美しいラインを見せびらかしている。
ふっ。ここに居るのが、一般的な成人男性だったら…既にダブルボールは潰されていただろう。
Dランクの胸部装甲は伊達じゃない!!
重力に引かれず、押し返してるんだぜ?
しかし、正直な話し。異性の何がいいのか、さっぱりわからん。
エロトークは大好きなんだけどねー。
なんでだろ?
「風呂、どうだった?」
作りや気持ちよさ、入った後のレイラの気分といった意味を纏めて聞いてみる。
「とても気持ちよかったです。叶うなら毎日入りたいくらいです」
「んじゃ明日からは夕食後な」
「えっ?」
「ん?どした?」
レイラが、驚いた表情で俺を見ている。
「明日からも入れるんですか!?」
「そのつもりだったが?明日からは魔法で湯を張るだけだから、手間もかからないしな」
「是非、お願いします」
両手を胸の前で握り、前かがみになって顔を近付けてくる。
畜生…これが身長差20センチオーバーの格差か…
「わかった、わかった。だから離れろ」
「あっ、すみません」
新鮮な食品は野菜しか売ってなかっが、保存食にチーズを見つけたので温野菜に乗せてみた。
チーズの特性がわからなかったが、上手く溶けてくれたのでよかった。
レイラにはこれが大ヒット。
美味しい美味しいと言いながら食べていた。
俺も温めなおした風呂に入ってみたが、すまなかった。
浄化で十分とか思ってたが、清潔にするとかの問題じゃない。
語彙力がなくなって、あーうー言いながらのぼせるまで入ってた。
アレを続けたら、俺はダメ人間になるな。
入るのは、たまにしとこう。
しかし風呂ってのは、なんだかいい匂いがするもんなんだな。
翌朝。
日の出と共に起きて、街へ買い物に。
チーズの大量購入より先に、食材買うから。
勝手に進むレイラをワイヤーで連行して、朝市に突入。
大きな呼び込みとスリを躱して、新鮮な肉野菜や食べ頃な肉。採れたて生卵があったので購入。
あれもいいな、これもいいな。目についた物は大抵買っていった。
通算7人のスリの脇腹を抓って、朝市から脱出。昨日の店舗でありったけのチーズを買った。
亜空間では、朝からステーキのチーズ乗せを出した。
3枚食べて動けなくなったチーズガールが居たので、昼まで休憩。
風呂に入るか聞いたら。
「はい」
とだけ、苦しそうに返事をしていた。
わざわざ大盾に乗って、風呂まで移動していた。
昼からは奴隷商館に来た。
レイラに丸投げしようとしたら、買うのはリオ君ですからと言われた。
ほわーい?
長々と説明されたが。
「自分が家事苦手だから、メイドが欲しいんだよな?」
頑なにうんと言わなかったが、視線を逸し過ぎでバレバレだ。
レイラ的に亜空間で成人男性と一緒だと、例え奴隷で安全でもリラックスして生活出来ないんですと断言された。
レイラに丸投げして、俺が買うって事で了承した。
魔窟に近い街なので、戦闘能力重視の奴隷しか居なかったそうだ。
本格的な亜空間生活2日目だが、レイラの強い希望で次の街に向かう事になった。
魔窟の街から南南東へ徒歩25~28日。
道なりに進むと王都が見えるらしい。
道中大小様々な町や村があり、街は1つ。
魔窟の街から12日の場所にあるこの街には、5つの奴隷商館があるらしい。
メイドを欲しガールの強い要望で、俺達はこの街により。丸2日かけて全ての奴隷商館を回るハメになった。
そして俺がまだ知らない常識が、この世界にはまだあった。
「ようこそいらっしゃいました。本日のご来店は売却ですか?」
最初の商館で対応した男は、レイラに話しかけ俺を見て値踏みしているようだった。
俺、小姓扱い。
いつもの事だ。
レイラがお怒りだったので、止める。
「購入だ。上限はこのくらいで」
商談前に持ち金を見せるのは愚策だが、手持ちの2000万ガネー。
プラチナ貨を2枚見せたら、男は五体投地で謝罪した。
物価は違うが、日本円にして凡そ2億。
並の人物が持てる金額じゃない。
「1度だけ。その首、繋げといてやる。感謝しろよ?」
「ありがとうございます」
男は1度も頭を上げないまま、再び感謝した。
「リオ君。少しやり過ぎです」
解せぬ。
「それではお客様、こちらへ起こしください」
「家事の出来る女を。年齢は問わない」
「はい。当店でも最高の者をご用意させて頂きます。おい」
「はっ!」
俺のというか、レイラの要望を俺が伝えると。男は近くに立っていた、従業員らしき男に合図する。
従業員は短い返事だけを残して、店舗の奥へと消えていく。
通された応接室?で奴隷の到着を待つ。
「女は隠し事が上手いからな。俺が選ぶより連れに選ばせる」
「かしこまりました」
コンコン。
「入れ」
ノックの音に男が指示を出す。
案内されてきたのは3人。
皆若く、そこそこ以上の美女美少女だった。
「では全員のレベル、ステータス、スキルを見せてください」
「かしこまりました」
そう、まさか。この世界にはゲーム的ステータスがある世界だったのだ!!
いやー驚きました。1年600日ちょいを12年以上生きてきて、初めて知る衝撃の事実。
「では1度、他の商館も見て回りますので」
「はい。いつでも、お越しください」
商館から出ると、レイラを亜空間に誘った。
「さっきの話しで質問が出来た。外では話し辛いから、中で」
「わかりました」
亜空間に入ってソファーに座る。
「俺は育った村で、1度もレベル、ステータス、スキルといった言葉を聞いた事がないんだよ」
「はい。都市部でもないと、そういう人や集落は多いみたいですね。理由としては、見るのに専用の魔道具が必要だからです。レベルを見るだけの魔道具でも、平民では10年分の総収入とほぼ同額になりますから。細かい数字が出るステータスやスキルまで見ようと思うと、大商店の年収数年分が必要になってきます」
なるほどねー。だから村で聞かなかったのか。
タクトなら買ってそうだが、嫌味になるからと話題にしなかったんだろう。
「なるほど、理解した。情報、感謝する」
「いえ。一生知らずに生きていく人もいますから、気にしないでください」
その日は3つ目の奴隷商館まで回り、3つ目でレイラのお眼鏡に叶う女性が見つかった。
それでも後2件、もっといい女性が見つかるかもと翌日も連れ回された。
2日かけて5件の奴隷商館を回った結果。
昨日見た3件目の女性を購入すると決めた。
「いらっしゃいませ。本日は購入で?」
50前後の女性店主が聞いてくる。
「ああ、昨日彼女が気に入った者を」
「はい、少々お待ちください」
待たされるというほどの時間を待たずして、昨日の豹獣人の美女に見える美少女が現れた。
彼女は特殊なケースで売られ、奴隷商館に買われた時と奴隷商館から売られた時。その両方のタイミングで、過去の記憶を消された。
詳しくは法に触れるので話せないらしいが、不当奴隷ではないらしい。
なお不当奴隷とは無理矢理奴隷にされた者達の事を言う。
しかし彼女はレベル、ステータス、スキルレベルのどれもが高く、レイラが即決しそうになるほどだ。
性別 女
年齢 15
Lv 48
筋力 428
頑丈 287
知性 242
俊敏 673
器用 596
魔力 219
無手格闘 4
家事総合 6
記憶というより過去がなくなっているらしく、名前がない。
過去がない割りにレベルやスキルが残ってるのは、売却時の詳細でどこまで消すかを、売り主が拘ったらしい。
それより驚いたのが彼女の年齢。
15歳。
身長は170センチ弱で、体付きは大人の女性そのもの。
F級の山を筆頭に。
ボン、キュッ、ボン。
醸し出されている雰囲気は退廃的で。一体何セット、身を守る為にダブルボールを潰してきたのだろう。色香に惑わない子供で良かった。つくづく、そう思う。
太腿の付け根まで届く黄金色の金髪は、前髪が1房こげ茶色に染まっている。
瞳も髪に近い金色で、人を惑わす悪魔の瞳にも見える。
ネコ科の瞳色の大半は黄色系なんだけどな。
つまりレイラは俺が大人になったら、この色香に惑わされる。つまり色香の誘蛾灯として期待しているのだろう。
…あの天然娘が、そこまで考えてるわけないか。
「それで、如何でしょうか?」
「買おう、幾らだ?」
「彼女は少々お高くございまして。お値引き致しましても800が限界でございます」
「800万か、買おう」
1000万プラチナ貨を、店主に渡す。
「それで必要な物も、付けてくれ」
暗に釣りはいらねえと、伝える。
「お買い上げ、ありがとうございます。最高の物を付けさせて頂きます。それでひとつお願いがございます。彼女に名前を付けてやって頂けませんでしょうか?」
無言で店主に続きを促す。
「この後直ぐに魔法で奴隷契約を致します。その時しか、彼女に名付けるタイミングがないのです」
なるほどねー。
しかし名前か、また難題を。
100回聞いても、覚えられない名前は覚えられなかった男相手に名付けとは。
花言葉とか名前に意味を持たせるとか…無理だな。
リオにレイラだから、ら行は止めておこう。
散々迷ってようやく決めた。
「彼女の名前はジェシカにしようと思う」
「いい名前ですね。よく考えつきましたね、リオ君」
「名付け終わるまで、ドアの外に居る荷物を届けに来た男に、入らないよう指示してたみたいだしな。時間だけならあった。」
店主は何も言わず、ただ微笑んでいる。
ダウト。
「さっさと契約して帰るぞ。名付けなんて慣れない事して、そのうち倒れそうだ」
「では、早速。ジェシカ、こちらに」
「はい」
店主の呼びかけで、ジェシカがソファーの横に跪く。
店主が口元を隠してボソボソ呟いた後、俺達2人の足元に魔法陣が現れ次第に消えていった。
「契約は無事終了し、これでジェシカはお客様の物になりました」
「末永くジェシカをお使いくださいご主人様」
ガチャ。
ドアを開けてレイラが入ってきた。
「リオ君。先に荷物は受け取っておきました」
「おー、レイラ気が利くな。夕食はチーズ多めにしてやろう」
「ありがとうございます」
奴隷商館を辞して、亜空間に戻ってきた。
疲れた脳が悲鳴を上げそうになっているが、約束のチーズマシマシ夕食を作らねば。
あっ、ジェシカ着替えさせるの忘れてたな。
風呂にも入れるし、メイド服は明日でいいや。
火種と水生を使い、ジェシカに手順を教えながら調理していく。
チーズを湯煎するために大鍋、水、小鍋、チーズ。
大小の鍋は柄を紐で縛って固定。
竈に乗せて火種でゆっくり溶かしていく。
ステーキは中鍋を使い、蒸してから表面を焼く。
チーズで増えるカロリーは、肉を蒸すことで少しでも減らす工夫を。
仲間で熱が通ったら、表面を焼いてチーズをかける。
サラダはシャキシャキした食感の野菜のフレッシュサラダ。
チーズの箸休めにもなるので、味付けはしない。
スープは肉と一緒に蒸した芋を潰し、湯に溶かして塩胡椒。
なんちゃってポタージュスープだ。
はい、夕食完成。
「ジェシカ、よく覚えておけ。
「はい」
「細かい話しは明日に回す。お前はテーブルに着いて、レイラと一緒におなじものを食べろ。風呂にも入れ。ベッドは予備があるから、それを使え。俺の指示命令が最優先。奴隷の常識なんざ、捨てちまえ。わかった?わからん?知るか、もう寝る」
直後、ベッドに倒れかけてからの記憶はない。
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