第16話 サタンクロース
長く辛い戦いだった。
騒音と暇との。
だがそれも終わり、最後の強敵が俺達を待っている。
さあ行こう。
「リオ君。何をブツブツ言ってるんです?」
「いや。魔窟の支配者っぽいドラゴンも、大鎌首チョンパで瞬殺だっただろ?レイラが収納するまでの暇潰しに、物語風に?これから挑戦しますよって感じのナレーションをつけてみた」
「はぁ。収納も終わりましたし、帰りましょう。これで魔窟も鎮静化するはずです」
「待ちたまえレイラ君。ドラゴンが財宝を貯めていないなんて、考えられません。きっとどこかに隠し財産があるはずです。探しますよ」
「魔窟の支配者だから、普通のドラゴンと生態が違っても不思議じゃないと…それにその話し方はなんです?」
「初ドラゴンがあまりにも弱かったら、適当にやってみた。意味はない」
ポッポー
しばらく探してみたが、壁に耳もメアリーもなかった。
最後に八つ当たりしてかえろう。
「レイラ。何もないから八つ当たりして帰ろう。頭上に盾を構えてくれ、乗る」
「えっ?あっ、はい。どうぞ」
素直に構えた大盾に立ち、威力を抑えた魔波を放つ。
レイラの立っている床以外が、魔力の波に曝されて塵になる。
「ドラゴン、弱すぎんだよー!財宝くらい、貯めとけよー!!」
「あわわわわわわ」
途中から生き埋めにならないよう、レイラが必死で塵になった壁や天井を収納していた。
おや?天井付近の壁に穴が?
隠し通路じゃあーりませんか!
「レイラ、舌噛むなよ!」
自分達に鎖を巻きつけて、隠し通路の天井に反対側を突き刺して縮める。
「ひいやぁぁぁぁぶっ!」
噛んだな。
兜で届かないのに両手を口元に持っていっているレイラ。
まだ痛みで話せないらしいので、まくしたてて誤魔化す。
「見ろ、隠し通路だ。きっとこの先には隠し財産や魔窟の秘密がかくされていたに違いない!!」
「なるほど。ありえますね。でも、舌噛んじゃいました。痛かったんですよ」
「ごめんなさい、許してください。でもまた、やると思います」
「…次からは、声をかけてからにしてください。約束ですよ」
「へい」
レイラも俺の気分屋に慣れてきたのか。最近、諦めと一緒に遠慮がなくなってきた。
これがチームワークか。
緩やかな螺旋通路を歩き続ける。
レイラの胴にワイヤーを巻いて命綱にして、鎧のホバーっぽい移動で先に行かせる。
俺はレイラに引かれ、ワイヤー安楽椅子で空を行く。
これがトナカイとサタンクロースか。
確か魔王から奪った金銀財宝を、孤児院やスラム街にばら撒くナイスガイだったな。
(リオ君。またなにか、変な事を考えてますね)
螺旋通路が終わり直進が見えてくるまで、1時間弱。
ものの数分で飽きて、いつもの大盾乗りに転職して移動した。
黒一色で凹凸のない螺旋通路が終わり、今度は白一色の直進通路を歩き終えた。
20メートルに満たない通路の先には、ひと抱えほどもある漆黒の球体が浮遊していた。
これがカップルを羨む嫉妬の具現した男女怨コア!
「始めてみましたが、これが魔核ですか。古い文献にのみ記載があるので、眉唾物だとおもってましたが。まさか実在するとは」
「詳しく」
「いえ、名前以外の詳細がないんです。推測や憶測だけが書かれていて、事実は何も」
ふーん。
持って帰るか、ぶっ壊すか。
レイラに収納させる前に、俺が触れてみるか。
ファイスと爆力強化で壊せるだろうし、霧になって逃げてもいいし。
「レイラ通路の境目まで下がってろ。安全かどうか、確かめる」
「そん…わかりました、下がります」
(私、何の役にも立ててないですね)
レイラも下ったので魔核に触れてみる。
ペタペタ。
ポムポム。
ゲスゲス。
触れても叩いても蹴っても反応なし。
大丈夫そうだな。
レイラに渡そうと魔核を持ち上げると、正面に移動して俺の胸に侵入してきた。
咄嗟に神力強化したが、最後まで侵入されてしまった。
途中までは嫌な感じがしていたが、神力強化してからは魔核の意識?感情?そういったモノが消え。純粋な力だけが俺に吸収された。
これが同化か、素晴らしい!
力が溢れてくるよう…な感じはしないな。
「あの、リオ君。魔核がリオ君の中に入っていったように見えたんですけど」
「ああ。何か侵入されかけたから、逆に食ってやった」
「ソウデスネ。りお君ナラ、当然ノ事デスヨネ」
レイラの笑顔が硬いが、まあ納得しているようだ。
魔核以降、白い直進通路の奥には何もなく。俺達の大冒険は終わった。
魔窟は残された魔力で、新たな魔核が発生すると期待しておこう。
ドラゴンを売れば金には困らなくなるので、レイラに預けておく。
ドラゴンは死後十数年は持ち前の魔力で、腐らず劣化しないらしい。
タンス貯金も可能とか、流石ドラゴン。
下りで開けた穴は塞がっていたので、帰りは通路を移動して帰る。
パーツ射出で最短経路を探し、レイラと大盾に乗って帰った。
魔物は吹き飛ばすだけで無視した。
帰路にて。
魔核の効果か、亜空間を使えるようになった。
「リオ君、おめでとうございます」
(また、私の役目が減るんですね…)
亜空間は空間収納とは違い、内部に入れた。
空間収納は、出し入れに手を入れるのが精々らしい。
俺1人でもレイラ1人でも、2人同時でも入れた。
ワイハウの時代は短かった。
俺達は今後、亜空間で寝泊まりする事にした。
背嚢2つも亜空間に入れ、元々手ぶらなレイラと同じになった。
見知らぬ人間からすれば、随分と魔窟を舐めた装備だろう。
直ぐに空間収納に気付くだろうが。
帰還開始より10日。俺達は大して懐かしくもない街へ戻ってきた。
今回は宿で1泊していく。
「いらっしゃいませ。シングル1室ですか?ダブル1室ですか?」
「シングル2部屋」
「ちっ。600ガネーになります。食事は別料金で、外で食べてきて貰っても構いません」
宿の受付の少女が薔薇色の波動を発していたが無視。
鍵を受け取って階段を上がる。
「都合よく隣だ。閂忘れるなよ」
レイラに鍵を渡し、指定された部屋に入る。
今回宿泊したのは、この街でベッドや家財道具一式を買い揃える為だ。
亜空間は魔力を注げば注ぐほど、内部が広く高くなるので、毎日爆力を注いで超拡張している。
触れられない白壁の立方体だったのが、既に高さは打ち止めで、今は横方向に広がっている。
端まで行くのは、もうやめた。入口周辺だけでいいや。
翌朝。
「レイラ。今日はベッドとかを買いに行くから、ギルドで金出してから店を回るぞ」
魔窟の帰りから、レイラが思い悩むようになった。
聞いても話そうとしないので、個人的な悩みだと判断。
おそらく。俺が何でも器用に熟すから、自分の女子力の低さを思い悩んでいるのだろう。
「そうですね。確かに亜空間の中で、家事に従事してくれる誰かが居るといいですね。ではリオ君。奴隷商も回りましょう」
さり気なくフォローしたはずが、地球の牧師が大嫌いな奴隷を購入する事になった。
あるぇ?
家具屋ではなく、木工屋だった。
店では注文か出来合いの選択だったので、出来合い物を購入。
ギルドでは預貯金全部降ろして亜空間に入れてあるので、財産管理も楽になった。
数える金も、どんどん減っていくしな。
ベッド、タンス、テーブルセット、衝立等。
思いつく限りの家具を購入した。
食器もかなり余分に買っておく。
次に向かったのは服屋。
いい布を使った服は、貴族の古着を平民用に加工した物が大半。
ここでもそこそこの量を購入しようと思ったが止めた。
俺もまだまだ成長するからな。必要分だけに留めておいた。
代わりにレイラの服は自由に買わせた。
残金も2000万以上あるしな。
年頃の娘さんだし、オシャレもしたいだろう。
リボンや生地も購入。
生地はノリで買った。
レイラの服選びを待つ間、暇だったのだ。
金物屋で調理道具を買い。
魔道具屋を冷やかして。
そこそこ日持ちする物を込で野菜と果物を買った。
買い物を終えたら、物陰から亜空間に入って引っ越し?作業。
家具を配置し、生活しやすいか歩いてみる。
家具の間隔や動線を気にしつつ、試行錯誤を繰り返す。
予定では数日街に残り、亜空間に不足している物がないか確認する。
問題ないようであれば、外に出て街から出発する。
引っ越しが終わったので、タンクトップと短パンに着替える。
魔窟の特性なのか、指定した物は亜空間に吸収させられるので、汚れや砂などは吸収させている。
おかけで亜空間内なら、裸足でも平気になった。
魔窟の壁を破壊して持ってきた岩を削り、加工していく。
蓋のない分厚い箱型にして、内側上下に穴を開ける。
穴の奥に、超小型化した槍を射出して縦穴を掘る。
穴の直径は5センチ程度で、奥行きは20センチ程度。
コの字型の穴になっている。
削りカスは、街から出たらポイ捨てだ。
いや、吸収させられるんだったな。
旅魔法で水を入れて、コの字の右下部分でまたも旅魔法の種火を使う。
魔法の火なので、燃焼の3要素は必要ない。
魔力がある限り燃え続ける。
種火に注ぐ魔力を増やして、ガンガン高温にしていく。
熱伝導率の加減で岩の温度は変わらずに、水が
湯に変わっていく。
そう、風呂である。
最近レイラが思い悩んでいる様子が、時折見受けられる。
風呂は人生における、砂漠のオアシスらしいので、レイラの為に用意してみた。
入り口付近の生活域からは遠いので、流れた湯が家具等を濡らす心配もない。
それまでに亜空間に吸収させればいい。
衝立、脱衣籠等を置ける棚、イス、片手桶、風呂桶、風呂使いの布、濡れた体を拭く布を用意設置。
石鹸は売ってないとの事で、用意出来なかった。
レイラを呼んで使い方を説明。
そろそろ夕方なので、俺は夕食をつくりますかね。
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