第18話 甘姉誕生

 いやー、よく寝た。

 昨日は、結構久しぶりに気絶したな。

 しかし何なんだろうな、俺と他人の名前の関係って。

 昨日のなんて呪いかよってくらい、急に頭が重くなったからな。


「おはようございます、ご主人様」

「おはよう」

 忘れていた。俺の気絶の原因ではなく理由の人物を。



 見た目は21か2の美女。

 昨日と違い、今朝はメイド服を着ている。

 首まで前でボタンを留める白シャツ。

 白い巨峰を隠さずに、美しいコントラストを見せるのは、足首まである紺のコルセットスカートと白のエプロン。


 足元は白のソックスで、長さは不明。

 長い金髪は首の後ろで、リボンで纏められている。

 ホワイトブリムは実用性皆無で、まるで布だけで作ったティアラのようだ。


 顔と手首から先しか肌の見えないのに、多分物凄い色気を出している。

 これで15なんだから。今から、ゲスが寄って来て起こる揉め事が、面倒で仕方ない。


 会話をするのにソファーに移動して、向かいにジェシカも座らせる。


「ジェシカ。お前は俺に買われた時も、記憶が消されたんだよな?」

「はい、そうでございます」

 随分と無表情に応答するなー。


 ふーむ。

「なら、一般的な親しい友人の会話や、言葉使いはわかるか?」

「いえ、不明です」


「敬語や丁寧語を使わない話し方は知っているか?」

「はい」


 いぃよし!

「命令だ。時と場所と相手を選ぶが、俺に対しては敬語も丁寧語も基本禁止だ」

「わかり…わかったわ」

 む、無表情…

 感情も何もかも、順次学ばせるしかないか。


「スキルがあるなら、家事は問題なく可能か?記憶がないから、やれと言われただけでは無理だとか?」

「可能です」

「言い方は?」


「…できるわ」

「よろしい」

 契約の効果なんだろうな。無意識に奴隷として振る舞うように、魔法で刷り込まれているとか。


「ジェシカ。俺はお前の事を、家族として迎え入れたいと思っている。家族と言っても夫婦じゃないぞ?命令権は持ったままになるが、ジェシカには姉として振る舞って貰っても構わないと思っている」


 ジェシカは何も反応せず、ただ次の言葉を待っている。

「俺の出す直ぐに実行出来ない命令は、無期限でいつか実行出来たらいいな。その程度のものだと覚えていてくれ。」


「わか…ったわ」

「うん、よろしい」

 少しだがジェシカに変化が見られたので、今朝はよしとした。


「朝食は任せるが。昨夜とは別のメニューを用意出来るか?」

「お…任せて」

 言わずとも頭を下げなくなったので、ジェシカの頭の良さと頑張りが見える。


 風呂まで移動すると。風呂の水を亜空間に吸収させて、浄化する。

 テーブルに着くと、いつものように半裸美少女がいた。


 キャァァァァァァ!

 チームの盾は、朝から絶好調だぜ!


 

 本来購入したメイドは、亜空間内で待機してもらう予定だった。

 しかし知識があるだけで経験のない美女系美少女なので、早急に社会勉強をさせないと色々危険だ。

 なのでジェシカも亜空間の外に出て、一緒に行動して経験を積み重ねてもらう。


 なおレイラの大盾は乗るスペースが足りなくなったので、今日からは徒歩で移動する。

 ワイヤー安楽椅子もいいが、一般的な事から経験させないとと思い歩きにした。


 メイドは購入したので王都に寄る必要もなくなった。

 ジェシカにはまだ王都は早いとの判断もあって、進路を東方面に変更。

 計画は立てずに、気分で行き先を変える予定。

 その方が旅っぽいからな!

 ここ重要。


 先頭は魂魄武装の鎧兜に大盾のレイラ。

 続いてブーツを履いたジェシカ。

 最後尾は俺。


 ジェシカの尻尾を始めた見たが、髪と同じ黄金色の毛に、先端付近が1房だけこげ茶色になっている。

 歩きに合わせて揺れているだけなので、面白みは何もない。


 移動と休憩を繰り返し、夕方手前で亜空間に入って飯風呂寝る。





 レイラ曰くジェシカのステータスは、レベルの割りに全体的に高い。

 2番目に低い知性でも、同レベル帯の平均より上らしい。



 つまり30日も経つと、完全に命令をモノにしたのだ。

 それも斜め上に。


「リオ君、お風呂上がった?髪、乾かしてあげるから。膝に座って」

「今日のはちょっと上手く作れたんだ、味見してみて。アーン」

「家事も終わったし。リオ君、抱っこさせて」


 甘い姉、そのまんまである。

 どこから仕入れた、その知識!!

 ジェシカ、怖ろしい娘。




 このまま東に向かっても大山脈があるだけ。

 噂では山の向こうにも、大国があるとかないとか。


 夕食後、亜空間。

 ジェシカが来てから再開した、亜空間への爆力供給も終わり。これからの予定を相談するために、全員でソファーに座った。


 俺は胸のボタンを外して、谷間を露出させたジェシカに抱えられ、後頭部を挟まれている。


 なぜ、こうなったか?

 ボタンをしたまま抱えられると、首が強制的に下に向けられて苦しい。

 これで逃げられると思ったらボタンを外したジェシカが。


「これなら苦しくないよね」


 と言った。

 どうしてこうなったと頭を抱えたいたら、気がつけばこうして座らされていた。


 チームの良心は。

「本当の姉弟みたいに、仲がいいですね」

 なんて言って、めさせようとは思わないらしい。


 俺は自力での脱出は諦めた。

 半泣きはアカンて。


 気を取り直して。

「明日からの進路だが。このまま東に向かうか、別方向にするか。希望はあるか?レイラ」


「私は特にありません」

「ならジェシカ」

「リオ君と一緒ならどこへでも」

 自主性!!


「んじゃ。山の麓まで行って、それからまた考えるって事で。解散」


 ジェシカが甘姉になってから、またワイハウが活躍している。

 添い寝しようとするジェシカを防ぐために、ベッドをワイハウで囲うからだ。


「リオ君のイジワルぅぅぅ」

 寝ぼけて抱きついてきて、呼吸困難になって目が覚めて以来。こうしてガードしている。

 慈悲はない。

 そして俺には、安寧もない。

 油断も隙きもない。


 翌、昼過ぎ。

 山麓に着いた。

 活火山ではない。温泉の夢はついえた。


 それはそれとして。

 中腹に人間の集団が見える。

 戻ってきたのか、向こうから来たのか。

 情報収集のためにも、しばらくここで待つか。


 敵意のない証として、大鍋4つで煮物を作っている。

 山越えしたしてないに関わらず、体力を消費しているだろう。

 情報料として、これくらいなら安いもんだ。



 山から降りてきたのは、顔だけ出した全身鎧の集団。

 共通の刻印が左胸にあるから、騎士ではなかろうか。


 うちには美少女が2人。

 ジェシカも年齢に合った表現をする事にした。

 騎士集団が野獣集団になったら、騎士集団を守らなければ。


 ジェシカがこの短期間で霊力強化を覚えて、タクトの半分弱まで強くなっている。

 先日も自身のナンパは躱していたのに、俺への罵詈雑言に対して苛烈に相手を殴っていた。

 腕以外を強化して、ジワジワ痛めつけていたんだよ。

 今回も相手次第では死山血河ならぬ、重体山血河が作られるかもしれん。




 3時頃、推定騎士集団と邂逅。

「私がき…この集団の代表、ホプキンスだ。そちらの代表と話しがしたい」

 40前後の無精髭だがイケメンが、名乗った。

「リオだ。あんたの事は、団長さんと呼ばせてもらおうか」


「何を知っている?」

 団長と後ろの騎士達も少々緊張…いや、戦闘態勢に移りだしている。


「何も。隠したいなら左胸を潰すか、鎧を脱がなきゃ。あまりにも中途半端だ。それより先に腹を満たせ。不揃いだが、食器もスプーンやフォークの数はある」

 僅かに緊張が緩むが。団長の判断を待ち、誰も動かない。


「俺達が先に食ってもいいが、毒を疑ってんなら解毒剤も疑ってるよな。時間の無駄だ、さっさと決めな。食わねえなら中身は捨てて、俺達も去る」





「はぁ。おい、後ろの。誰か1人出てこい。先に食わせてやる。毒味係だ」

「何を勝手な」


 団長の声を無視して、誰かの立候補を待つ。



「ジェシカ、鍋を蹴倒せ。帰るぞ」

「はーい」

 言いながら、端のの大鍋を蹴るジェシカ。

「ちょっと、リオ君」


「えーい」

 ガシャーン、ドパーッ。


 回し蹴りで残り2つの鍋を一緒に蹴倒そうとするジェシカ。

「待ってくれ!」

「待て」

「はーい」

 団長の声では止まらないジェシカを、俺が止める。


「レイラ、ジェシカ。配れ、作り直せ」

「はぁ。みなさん、1列に並んでください」

「任せてー!」


 推定騎士達は、久しぶりだろう温かい食事に打ち震えた。




 なお。

 ぶち撒けた食材は、後で野良スライムが美味しく頂きました。

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