第19話 お茶会
「そんなに警戒しなくても大丈夫よ。今日は非番だから」
リコ。19歳の女性で騎士団の第三部隊隊長を任される本物の天才。そしてホームズ先生に目を付けれた存在。ここで殺すのは簡単だが、殺したらホームズ先生に怒られるだろう。
「ここのフラッペは美味しいわよ?」
そして何故かリコに連れられて私は喫茶店にいた。リコは特に感情を見せることなく生クリームたっぷりのホットココアを飲んでいる。この店で美味しいのはフラッペではないのかとツッコミたくなる。
「そんなことより、リコはどうしてここにいるんですか?」
「この街で暮らしてるからよ。ここから職場である王都まで馬車で片道二時間だから不便はないわ」
「まさか……」
「見つけたのは偶然じゃないわよ。騒ぎになってたから近隣を調べてたら、ララちゃんを見つけたのよ」
しかし、この女。あまりにマイページ過ぎる。
私に対する怒りも感じなければ、事件を解決しようという熱意も感じられない。相変わらずの美少女ではあるが、ほんとに警戒するほどの女なのか?
「しかし。さすがに自殺偽造はビビるわね。身元も分からないくらい死体を焼かれたから、それがあなたと判断されて捜査も打ち切りよ」
「……私になんか用ですか?」
「別に。ただ人殺しちゃんがどんな人か気になっただけよ」
「私が殺したっていう証拠はあるんですか?」
「ないわよ。でも人を殺したっていう実感はあるんでしょ?」
この女。ほんとに読めない。なにをどうしたいのかまったく分からない。正直、リコは正義感が強く私を見たら、いきなり殴りかかってくると思ったのだが。
あまりに聞いていた話と違う……
「私だって怒ってないわけじゃないわよ」
「え?」
「ララちゃんに怒らないのは、悪いのがあなたじゃないからよ」
「それじゃあ誰が悪いと言うのですか?」
「あなたを唆した金髪長髪の男と私ね」
ああ。そういうことか。リコは間違いなく気付いている。ホームズ先生の存在というものに。リコの目から見て私という人間は被害者としか映っていないんだ。
しかし『私』というのはどういう意味だろうか?
「もしも私が虐めに気付いて、止めていれば事件は起こらなかったのよ。もっとも違う街の学園で起こった虐めに気付けというのは無理な話だけど、そういう無理をしなければ私の理想は成し遂げられない。私には虐めに気付く義務があった。だから気付けなかった私のせいね」
「そんなこと……」
「あるわ。私は騎士団の第三部隊隊長。どんな無理だろうがやらなくちゃならないの。だって私は完璧じゃないといけないのだから」
前言撤回。この人はとっても正義感が強い人。そして理想が高い人だ。一切の妥協を許さず、それを成し遂げる力もある。とっても強い人。
なんとなくホームズ先生とガブリエルが彼女に執着する理由が分かった気がする。
「……長話が過ぎたわね。それとララちゃん。これだけは覚えておいて」
「ん?」
「生きたいと願った人が死ぬのは絶対に間違ってる。あなたが、これ以上誰かを殺すようなら私はあなたを許さない」
その時のリコの眼を私は一生忘れないだろう。この場で初めて見せた怒りの感情。それはあまりに強くて、カッコいいものだった。リコは間違ったことにノーを突き付けられる人だ。
「それと――少し歯を食いしばりなさい」
それから私の頬に衝撃が走った。私はそのまま弾き飛ばされて、壁に強く叩きつけられる。そんな様子を見て、周りの目線が私に集まる。
頭がクラクラする。少しして蹴り飛ばされたことに気付く。あまりに速い蹴りでナニをされてのかすら理解するのが遅れた。
「……私はあなたに怒っていない。でも私は怒ってなくても、あなたに殺された人達や遺族達は怒ってるのよ。今の蹴りはその分よ。それじゃあ邪魔したわね。もう二度と会わないことを祈ってるわ。人殺しちゃん」
そうしてリコは私の分のお会計も済ませて、この場をあとにした。蹴られた頬がとても痛い。未だに頭がクラクラする。ノーモーションで放つ蹴りであそこまでの威力があるとは……
私も頬を抑えながら、リコに続くように喫茶店を出る。
あの女……人に恥をかかせやがって……絶対に許されない。今度会ったら八つ裂きにしてやる!
喫茶店から外に出た時には既にリコの姿は見えなかった。なんて逃げ足の速さだろうか。しかしまぁいい。次に見つけたら殺す。でも今はいい復讐の方が優先だ。
そんな時だった。酷い立ち眩みが体を襲ってバランスが崩れる、間違いなく先程の蹴りが原因だ。脳が揺らされて、体に大きな影響が出ている。数時間くらい経てば治るだろう……
「くそが……」
最高の気分から、最悪の気分だ。虐めで殴る蹴るは日常茶飯事だが、ここまで威力の高い蹴りは初めてだ。しかし終わったことを考えても仕方ない。今は次のこと。明るい未来のことを考えよう。
だけどリコ。あの女だけは絶対に許さない……
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