お菓子の国のサイコパス
中本 優花
プロローグ
「ララ君。私は思うのだよ。人と獣になんの違いもないと」
「ホームズ先生。それはどういうことですか?」
「人を殺すのは悪じゃないということだ」
彼の名前はホームズ・モリアーティ。二週間前にやってきて住み込みで私に勉強を教えてくれているお父さんたちが連れてきた家庭教師。もっともお父さん達はホームズ先生が来ると同時に私を捨てて、どこかに旅に出てしまったが。
そのため私はお父さん達が現在、どこでなにをしてるか私は知らないし、これから知ることもないだろう。
「それよりも先生。私に勉強を教えてください」
「そうだね。大規模な革命が起きた現在、この甘いお菓子の世界がどうなるか分からない。だからララ君は勉強しなければならない。知識というのはこの上ない武器だからね」
ホームズ先生は背が高く痩せ型の三十代の男性だ。整えられた白髭と片眼鏡を彼はチャームポイントと自負するが、一際目立つのは腰まで伸びたボサボサの金髪。男性でここまでの長髪は珍しく、街中ですれ違ったら間違いなく誰もが振り返るだろう。
「死刑制度の完全廃止、騎士団の体制見直しに革命軍との和平と間違いなく世界は変わり始めている。それにより混乱している国民も少なくない。もっともこの程度で混乱するような人間など……おっとこれ以上はよそう。君の教育に悪い」
「そうですか。早く勉強を……」
「そうだね。では二次関数というものを教えようか。二次関数というものは商売に役立つスキルだ。これを知っていれば商品の値段をいくらにしたら利益が最大になるか分かったりする。もっとも社会主義のこの国では必要のないスキルかもしれないが、大規模な革命が起こった現在では資本主義にいつ変わってもおかしくない。だから覚えておくべきだよ」
「資本主義? 社会主義? なんですかそれは?」
「今度教えてあげよう。今は二次関数を勉強する時だ」
「はい」
ホームズ先生はどこかミステリアスだ。教え子である私も何を考えてるか分からない。もっともだからこそ彼という存在に惹かれていったのだが……
さてここまで長々と話したが、そろそろ本題に入ろう。これは最低な悪の物語だ。人を言葉で弄び、命を冒涜的に奪う。しかし、人間という存在を心の底から愛している。これはそんな男の物語。
そして、私が悪に墜ちるまでの物語。
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