第28話 人類の敵
「許して! 許して!」
ガヤガヤとうるさい女。はしたない。その下品な口を閉じろ。顔も汚い、声も汚い、髪も汚い、性格はクソだったけど、顔も髪も声も指も可愛かったリコを見習ったらどうだ。
「いやぁ……付け焼き刃だけど上手く拉致れるものだね」
「ガブリエル。いつの間に、そんな術を覚えたのね。好きよ」
「おお! 大胆なプロポーズ!」
「茶化さない。斬るわよ?」
「さーせん」
目の前にいる女。私から全て奪った女。名前は多分ゾエ。ガブリエルが拉致してくれた。そして現在は下水道にいる。下水道は迷宮になっている。いくらリコと言えど見つけるまでに拉致したという情報を掴むのに2時間は必要だろう。そして現在は拉致してから1時間と20分。つまり15分で殺す。
「しかし、ララ。本当に僕の手を借りなくていいのかい? 僕ならこいつを一流奏者が奏でるトランペットと同じくらい美しい悲鳴を鳴らせる」
「……うるさい」
そして下品な女が涙目で命乞いするようにこちらを見ている。不思議と殺したいという感情は湧いてこない、苦しめたいという感情も沸いてこない。今は血を浴びたい。殺すのは誰でもいい。次はリコ辺りを狙うか? 彼女の血は恐らくサラサラで、それを浴びるのは最高だろう。
「しかし僕は怖いよ。ララは性格が変わりすぎだ。なんかの薬物でもやってるのかい?」
「リコ。あの女のせいよ。あの女の説教……ああ、イラつく!」
「ララ。リコを殺すのはNGだ。最悪の場合はホームズ先生に君を始末しろと言われている」
「ケッ……」
「それより君の杓変はゾエのせいじゃないか? 君という人間は自分を虐めた人間よりも圧倒的に優位な立場になることで、狂気を残しつつ、落ち着く。そして落ち着くことで情報の再整理が行われ、その再整理の結果を踏まえて性格が変わる」
「それは悪いの?」
「自分で決めろ」
とりあえず私は剣を出す。銀光がいつになく美しい。とても綺麗な剣だ。今回は噴射せずに、それを掴み、ゆっくりと太ももに突き刺していく。
「ああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「醜いアヒルの子も悲鳴は美しいのかしら? こんな汚い人間の悲鳴が美しいのだから、きっとそうね」
「許して! 許して!」
命乞いか。みっともない。最後くらいカッコよくいようとする努力を見せたらどうだ? だから虐めなんかするようなドクズなんだよ。それから私は彼女の腹に何度も何度も剣を突き立てる。その度に私の頬に血が跳ねる。腕に血が跳ねる。全身が生暖かい血に染まる。とても気持ちいい! 気持ちいいわ!
「これよ! この感覚を求めていたのよ!」
もう虐めなんてどうでもい。もっとこの血を浴びたい。彼女の呻き声を聞いていたい! 何度も何度も刺す。刺す。ひたすら刺す!
やがて音が鳴らなくなった。触ってみると冷たい。なんだ、死んだか。つまんないな。私は無言で蹴って下水に捨てる。
「僕ならもっと甚振って泣かせられたのに! もったいない! 絶望が足りていないよ」
「……楽しかったなぁ」
またやりたいな。今度はリリアンか? いや、リコが近くにいる。それならもう一人の方だ。もう名前は忘れたけど。
「さて、そろそろリコがやってくる頃だ。撤退するぞ」
「そうだね」
それから早歩きでその場から去る。下水道を彷徨い歩いる中で私にガブリエルが話しかけてくる。暇だから付きあうことにしよう。
「さすがにリコには勝てない。もっともお前が
「そういえばルナさんは?」
「さぁな。既に理性はない。恐らく適当に人を殺しまわってるんじゃないか?」
「その割には騒ぎになってないわね」
「……たしかに。でも俺達には関係のないことだ。行くぞ!」
「うん!」
残りは二人。一人は恐らく騎士団から護衛がつく。リコはリリアンの傍にいるなら動けないはず。まぁそこら辺はあとで考えよう。問題はリコだ。頭に血が上って戦闘を挑んだが、勝てない。どう足掻いても勝てない。
でも、ホームズ先生の最終目標はリコ。だからリコは避けては通れない。
「……ガブリエル。これからどうする?」
「とりあえずエステルを狙いたい。リリアンはお前も分かってると思うがリコが傍にいるから手を出せない」
「そうね」
「そこでホームズ先生から提案がある」
「なに?」
「ララ。お前は殺せるならだれでもいいのか?」
「出来れば虐めっこがいいけど、他の人でもいいわ」
「それなら学校で屍を積み上げる気はないか?」
屍を積み上げる?
つまりいっぱいの人を殺せるってこと! あの見て見ぬフリをした教室とか傍観を選んだ生徒とかも殺せる! それはとっても楽しいこと!
「リコも恐らく学校にまでは来ないはず。つまり上手くいけばリリアンも狙えるとホームズ先生が言っていた」
「遂に! 遂に殺せるのね!」
「ああ、これからホームズ先生と通話して、細かな計画を決める。命令には従ってもらうぞ」
「わかった」
楽しみだな。あの校舎を赤色で染め上げるのって凄く楽しそう。どんな風に殺そうかな? 頭を吹き飛ばす。腹をほじくる。色々な案が思い浮かぶ。
「ララ。そろそろ出口だ」
「やっと?」
「ああ」
そうして私達は下水道から脱出した。辺りには誰もいない。間違いなく裏路地だ。一人殺して無事に逃げたのだ。
「とりあえず新しい家に帰るか」
「うん!」
家に案内されてる時。私はずっと明るい未来について考えていた。
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